古い空き家などを売りたい人と買いたい人を結びつけるインターネットサイトが存在感を増している。新型コロナウイルス下で在宅を組み合わせた働き方が広がり、セカンドハウスなどを求める人が掘り出し物を探す。立地が不便で傷んでいるなど不動産仲介会社が扱いにくい物件も個人間取引が加速。「負動産」に悩む家主には駆け込み寺のような存在だ。
「3棟セットで100万円! 福島・田村のポテンシャル激高物件!」。空き家紹介サイト「空き家ゲートウェイ」に載るこの物件は築60年近い蔵、倉庫、小屋のセットで台所や居住空間もあるという。サイトは小屋の企画・販売を手がけるYADOKARI(横浜市)と空き家活用サービス会社あきやカンパニー(東京・渋谷)が2019年から共同で運営する。
特徴は価格を統一した格安物件を扱う点だ。目立つのは100万円に設定した物件。大規模な修理や残置物の片付けが必要な物件はタダ同然の100円とし、まとめて「100均物件」と呼ぶ。
個人から自治体、企業まで基本的に無料で掲載でき、どちらの価格にするか選んでもらう。サイト側で物件の魅力を文章にして写真とともに紹介する。簡易査定機能で100万円超の価格がつきそうな物件はあきやカンパニーの借り上げ転貸サービスなどを紹介する。
相続したが住まないなどの理由で空き家を手放す場合、不動産業者に仲介を依頼するのが一般的だ。だが安い物件は業者が受け取れる仲介手数料が少なくなるため、手早く成約させて稼ぎたい多くの業者が敬遠する。
こうした埋もれた物件に光を当てるのがサイトの役割だ。事業責任者でYADOKARI所属の川口直人氏は「不動産価値が低いようにみえても別の人には移住や事業開始のきっかけなど宝物になる」と話す。
売買交渉は当事者間で進めてもらい、手数料は取らない。主な収入源はサイトに載せる広告の掲載料だ。ほかに自治体や企業が載せた物件への問い合わせ対応の代行や特設ページを提供する有料プランも用意している。
これまで100強の物件を載せ、把握できたものだけで35件以上が売却まで済んだ。内見などが進行中の物件も20を超える。簡単な改修を施して100万円を超える価格に設定した「プレミアム物件」の取り扱いも始めた。空き店舗など、賃貸物件も一部で取り扱う。
空き家の個人間取引で先行するのが家いちば(東京・渋谷)が運営する同名サイト。売却理由や思いを記したコメントと写真が並ぶ。設定自由の価格や内見日などを当事者しか見られない掲示板機能を使って直接交渉してもらう。同社も目を通してトラブルを防ぐ。

商談成立後に物件を調べて重要事項を買い手に説明し、書類をまとめる作業は提携する宅地建物取引士が担う。成約時の手数料は、法律が定める上限額の半分に抑えた。
15年の開設から700件以上が成約。中心価格は新型コロナ流行前に150万円前後だったのが300万〜400万円に高まった。ページビュー(PV、閲覧回数)も月平均500万超と約5倍に増えた。藤木哲也代表は「需要が旺盛で物件が足りない」と話す。
新築人気が高い日本は中古住宅の流通比率が欧米より低い。その新築も建材費高騰に伴う販売価格の上昇が購買意欲を冷やし、住宅ローン金利に先高観も出ている。そこで中古に目を向ける消費者は増えている。
人口減と高齢化で空き家は増える一方だ。18年時点で約849万戸と住宅全体の13.6%を占め、30年代に約2千万戸に達する見込み。メルカリで手軽に取引するように、不動産でもデジタルが出会いのけん引役になるかもしれない。
(デジタルマーケティングエディター 大林広樹)
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