· 

住宅難民、東京から隣県へ 30・40代の転出超過2万人 新築増、飽和懸念も

新型コロナウイルスの影響が弱まり、再び人口の東京圏への一極集中が強まっている。ただ、中核の東京都をみると、高騰する住宅コスト総合2面きょうのことば)の影響で子育て世代を中心に周辺3県への転出超過が止まらない。周辺3県は住民誘致のために新築住宅を増やしており、空き家増加のリスクがある。高齢者や子育て世代など多世代が共生して住める街をつくり、人口を多層的に増やしていく知恵が問われている。

 

総務省の住民基本台帳人口移動報告によると、東京、神奈川、埼玉、千葉の1都3県の東京圏は2022年、転入者が転出者を上回る転入超過が9万9519人と前年より1万7820人拡大した。高度経済成長期やバブル期には勢いが鈍ったものの、息の長い転入超過が続く。地方圏はもちろん、大阪圏(大阪府、兵庫県、京都府、奈良県)や名古屋圏(愛知県、岐阜県、三重県)も転出超過だ。

東京圏も全世代が集まるわけではない。都の人口移動を年代別にみると、15~29歳が約9万人の転入超過の一方、他の年代はすべて転出超過で、合計で約5万2千人。特に30~40代(約2万1千人)と0~14歳(約1万1千人)の転出超過が大きく、子育て世代の「東京脱出」が鮮明だ。

なかでも都から周辺3県にはいずれも転出超過で、埼玉への1万2458人を筆頭に計約2万4800人に上る。都外への転出者数は周辺3県が56%を占め、残る43道府県の合計より多い。住宅政策に詳しい神戸大学の砂原庸介教授は「住宅費の高騰が続く都から周辺3県に人口がにじみ出る状況だ」と分析。過去20年ほどの推移をみても、マンション価格が騰勢を強めると転入超過が鈍る傾向がある。

都の住宅コストを周辺3県と比べると、新築戸建ての価格は2~5割高、マンション賃料は5割高から2倍、住宅地の地価は2~5倍だ。砂原氏は「高い住宅コストは避けたいが、東京への通勤圏内から離れる選択肢はないという意識があるのでは。東京以外の地域で魅力的な仕事に就くのは依然として難しい」とみる。子育て世代をひき付ける周辺3県も「実態は都のベッドタウン化の拡大で、企業が従業員ごと移転してくるのとは違う」(砂原氏)。

 

 

周辺3県は新築住宅で転入者を受け入れる姿勢が目立つ。22年の新設住宅着工は前年比4~6%増と全国平均(0.4%増)を大幅に上回る。短期的には人口増に沸いても「いずれ増やした住宅がだぶつく懸念はある。高度経済成長期に開発され、現在は人口減と空き家増に悩むニュータウン地域のような苦境に陥らない保証はない」(同)。

地方はもちろん、東京圏でも住民誘致策の練り直しが必要だ。フィンウェル研究所(東京・新宿)の野尻哲史代表は「若い世代ばかり集めようとしても限界がある。60代前後のリタイア世代を受け入れてはどうか」と提案する。

 

 

東京圏以外で転入超過の数少ない自治体の一角、長野県と茨城県。交通の利便性と割安な住宅費が魅力で、子育て世代に加えてシニア層の支持も広がる。両県とも60代の転入超過数は人口規模がより大きい東京周辺3県を上回った。「シニア層は人口集積部への関心が強い」(野尻氏)ため、地方の中核都市では既存住宅を活用できる余地がある。実際、長野県では既存住宅が一定の受け皿となった。

資産の保有額が相対的に多いシニア世代を誘致すれば地方の消費を喚起し、仕事の創出につなげることができる。その仕事をテコに若い世代を呼び込む。人口減時代の住民誘致策は新築を増やすのではなく、既存住宅をどれだけ活用できるかにかかっている。

(住宅問題エディター 堀大介)