2023年1月の入国者は前年同月の4.4倍だった。アルゼンチンで生まれた子供には市民権が与えられて両親も滞在できるため、妊婦の入国が目立つ。プーチン政権の強権支配や追加徴兵から逃れる目的とみられる。
ビクトリア・ボベルクさん(20)は3月、妊娠7カ月でポーランドからブエノスアイレスに到着した。本人はウクライナ出身で夫はロシア人の建築家。妊娠が分かると「夫婦どちらの国籍でも子供には難しい」と考えて夫妻での渡航を決めた。5月に出産を予定する。
アルゼンチン移民局によると、22年初めからの1年間でロシア人は男性が1万1399人、女性は1万777人が到着した。23年1月にはロシア人は4523人が入国し、前年同月(1037人)から大きく増えた。
目立つのが妊婦だ。直近数カ月で5800人以上の妊婦が入国したとの情報もある。ロシア人は安価なエチオピア航空を使うことが多く、2月9日の同航空の便には妊娠後期のロシア人の妊婦33人が搭乗していた。
米国や欧州主要国と異なり、ロシア人はアルゼンチンには査証(ビザ)なしで入国できる。アルゼンチン生まれの子供には市民権が与えられ、両親も滞在可能になる。かつては先進国の一角だったため医療施設も比較的充実しているとされる。
移民局の担当者は「マフィアが大金を得ることと引き換えに出産を支援している」とも指摘しており、書類偽造などへの警戒を強めている。
ロシア東部イルクーツク出身のダリア・ニコノフさん(32)は22年6月、妊娠8カ月でアルゼンチンに入国し、同年8月に中部メンドサで長男を出産した。「子供には国際的な人間になってほしい。外国のパスポートを取得することは好ましい」と話した。ロシア人の夫とともに、遠隔で旅行会社の経営や英語講師の仕事をしている。
永住権取得などに関するコンサルタント会社「ヘンリー・アンド・パートナーズ」によると、ビザなしで入国できる国や地域の数は、アルゼンチンは171と、ロシア(118)を上回る。
ウクライナ侵攻後、祖国を離れるロシア人が後を絶たない。とくに昨年9月にプーチン政権が部分動員令を発動すると、出国者が急増した。「ノーバヤ・ガゼータ欧州」は昨年9月、動員令後の1週間弱で26万人が出国したと伝えた。出国先はカザフスタンやジョージア、フィンランドなどが多いとみられる。
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