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ボリウッドにジェンダー革命 女性主演映画が大ヒット、監督やスタッフも増加

この映画はボリウッドにとって画期的な作品となった。女性主演映画で過去最高の制作費を投じ、興行的にも大成功してパードゥコーン氏をスーパースターの座に押し上げたからだ。

ボリウッドにおけるフェミニズムの浸透、女性スタッフの増加、ストリーミング配信などが、女性を男性を補佐する存在として一面的に描き、わずかな報酬を支払って30歳でお払い箱にするという、従来の慣習を変え始めた。

しかしハリウッドがジェンダー問題との取り組みに苦労しているのと同様、巨大な人口を擁するインドにおいて最大の文化的輸出品である映画業界の変化には、時間がかかっている。

バドミントンで全国レベルの選手だったパードゥコーン氏は「やった、ガラスの天井を打ち砕いたなどとは思わない。この映画ならここまで達成すると思っていただけ」と語った。

Nikkei Asia(NA)は過去20年間のボリウッド映画1200作品を分析した。00年代初頭は10本に1本しかなかった女性主演作品は、4本に1本となった。インドの人口は14億人だが、映画の有料観客数は年間20億人を超える。インド人が最も情熱を傾けているのはクリケットと映画だ。

異なる集団間の緊張が高い国で、映画はいまも人々を結びつける。インドの3大男優の一人、シャー・ルク・カーンの、ムンバイの海沿いの6階建ての邸宅はたびたび歩行者の渋滞を引き起こしている。

「インドのように映画に夢中でスターに心を奪われている国では、人々が尊敬するスターのまねをする」とベンガルールの新興企業創業者、イシャニ・ロイ氏は指摘する。「映画で女性がどのように扱われ、描かれるかはインドでより大きな意味を持つ」

歩みは確かに遅い。オルマックス・メディア・アンド・フィルム・コーポレーションの報告書によると、21年に作られた150のインド映画・シリーズを分析し、女性は脚本家の12%、編集者の8%、監督の4%、撮影監督の3%しか占めないと判明した。

NAによるヒンディー語長編映画の分析では、過去20年間で女性監督は8%しかいなかった。また、同時期におけるボリウッドの女性主演作は、どの年でも総制作費の5分の1以上を占めたことはなかった。

それでも、「主役だけでなく、脚本家にも女性が増えている」と映画プロデューサーのアヌシャ・ボズ氏は話す。ボズ氏は短編映画「シェイム」の脚本・監督を手がけた。苦情で解雇された客室清掃係の女性を主人公にしたものだが、ユーチューブで1千万回再生をすぐに達成した。「台本を売り込む会議でかつてないほど女性が増えた。10年前には男性しかいなかった」

ボリウッドでは最近、女性が演じる役割だけでなく、女性が出演できる年代にも大きな変化が起きた。女優は過去数十年間、30歳の誕生日を迎えると価値を失っていた。しかし、業界の様々な場所で女性が急増したため、キャリア復活ができるようになった。

NAの分析では現在、女性主役映画の33%は35歳以上だ。しかし、女性に対する見方には依然として偏見がつきまとう。「男優が頼めばかなえられる。女優が同じことをすればスター気取りだ、駄々をこねていると言われる。平等と尊敬を得るには時間がかかり、長年努力してきた」とパードゥコーン氏は語る。

インドで女性に対する犯罪は過去6年間上昇の一途をたどり、21年には40万件超の被害が報告された。モディ首相は建国75周年の記念演説で女性に対する「考え方を変える」ように求め、差別解消を訴えた。

ヒンディー語の映画ではこれまで、女優たちが職業という文脈で描かれたことはほとんどなかった。NAの分析では、職業を持った1319の登場人物のうち女性は32%にとどまる。いままでは妻、娘、姉妹、女友達として描かれてきた。

そこにも変化が起きている。40歳を超えた女性には不親切なことで知られる映画業界で、63歳のニーナ・グプタ氏にはインスタグラムのフォロワーが110万人おり、複数の映画で重要な役を演じている。キャリアの多くは1980年代に築いたが、いま最盛期を迎えている。

女性の欲望に関する意欲作「ブルカの中の口紅」の監督、アランクリター・シュリーワースタウ氏は、脚本と監督を担当したネットフリックス作品などで最盛期を過ぎたとみられていた1990年代の女性スターを復活させた。現在40~50代になった彼女たちの素晴らしい演技を届けている。

パードゥコーン氏は、最後に「ルールは誰にとっても同じであるべきだ」と語った。

(ジュイ・チャクラボルティ、スルビ・バティア、キラン・シャルマ、サヤン・チャクラボルティ)