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首都圏 鉄道新地図(5)都心直通にかけた相鉄 「新横浜線」で沿線人口増へ

神奈川県央部から東京都心へ直通する相模鉄道・東急電鉄の「新横浜線」が18日開業する。人口376万人の横浜市でも既に人口減少社会が到来し、市の内陸部では急速に高齢化が進む。沿線への影響は大きく、相鉄の輸送人員は早くも1990年代半ばから減少の一途をたどってきた。要の横浜駅経由にはこだわらず、相鉄は東京都心直通に活路を見いだした。

 

「新横浜線」は相鉄の起点である横浜駅を経由しない(15日、相鉄・横浜駅)

「新横浜線」は相鉄の起点である横浜駅を経由しない(15日、相鉄・横浜駅)

 

知名度の低さ壁

 

「そもそも相鉄は知られていないので、住宅を検討する際の選択肢にすらのぼってこない」。経営企画部の担当者が口にするのは強い危機感だ。新型コロナウイルス禍前に年間乗降客数が8億人を超えていたターミナル、横浜駅を起点にするが、全路線が神奈川県内にあり、認知度調査で都内の回答者の7割が相鉄を「知らない」と答えたという。

相鉄の輸送人員は95年度に2億5141万人を記録した。だが、全国の人口が減少に転じた2008年より10年以上も早くピークを迎え、以降は減って2億3000万人前後で推移。コロナ禍の影響で21年度は1億8000万人にまで減少した。

 

 

1970年代以降、沿線で盛んに進めたニュータウンや宅地の造成。当時移り住んだ「第1世代」は高齢化し、その子どもたちは都心通勤で乗り換えの手間のない沿線外へと流れていった。

二俣川駅(横浜市旭区)近くに30年以上住む女性(64)は「娘は学生の頃、ここから東京の学校に通ったが、就職を機に引っ越した」と話す。

 

閉じた環境打破

 

相鉄沿線の横浜市旭区では65歳以上の高齢化率(22年1月1日時点)が30%を超える。泉区も29.5%、瀬谷区も28.9%と、沿線には市平均(25.2%)を上回る地域が多い。

 

神奈川県央部への人口呼び込みを目指す(横浜市)

神奈川県央部への人口呼び込みを目指す(横浜市)

相鉄グループは横浜駅西口で商業施設を運営するなど西口エリアの開発をリードしてきた自負がある。それでも「神奈川県で閉じている現状を打破しなければ、いずれ衰退する」(経営企画部)。横浜駅を経由せずに都心へつながる「新横浜線」の整備にかじを切るのは必然だった。

新横浜線は相鉄本線の西谷駅(横浜市保土ケ谷区)で分岐し、羽沢横浜国大駅(同市神奈川区)から新駅の新横浜駅(同市港北区)、新綱島駅(同)を経て東急東横線日吉駅(同)へ接続する。神奈川から東京、埼玉をつなぐ7社局14路線の広域ネットワークは多くの直通運転も設定され、乗り換えなしで都心へつながる。

湘南台駅(神奈川県藤沢市)から東京メトロ副都心線の新宿三丁目駅(東京・新宿)までの所要時間は最速59分。海老名駅(神奈川県海老名市)から都営三田線の大手町駅(東京・千代田)までは最速70分だ。

「相鉄沿線は住民の受け皿に名乗りを上げた」。ライフルホームズ総研の中山登志朗チーフアナリストは新横浜線の意義を指摘する。同社調査では、相鉄本線の横浜駅から海老名駅までの賃料相場は上昇傾向だという。

駅まで徒歩10分以内、30平方メートル未満(ワンルームタイプ)の場合、22年12月~23年2月の平均賃料は1年前と比べ、ゆめが丘駅で25%(1万3500円)、相模大塚駅で24%(1万2000円)上がり、相鉄いずみ野線を中心に上昇傾向だ。

それでも都心と比べ割安だという。「テレワークで週2~3日の出勤で済むなら都内に住む必要性は薄れる。アクセスのいい郊外に住めば実質、可処分所得も増える」(中山氏)

広域鉄道ネットワークの発達は、裏を返せば住む場所の選択肢が広がることを意味する。相鉄は「ようやくスタートラインに立てただけ。これからが勝負」と開業ムードに浮かれる様子はない。

(この項おわり)

 

和佐徹哉、森岡聖陽、松隈未帆、相松孝暢、二村俊太郎が担当しました。