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生前贈与、孫向けに関心 相続財産に含まず節税に

相続税は相続人が被相続人の死後に引き継いだ財産額に応じてかかる仕組みとなっている。生前に贈与などで相続人に財産を移せば課税対象の財産が減り、相続税を抑えることができる。このため生前贈与は相続節税の有力な手段とされ、特に富裕層の間ではどう利用するかに関心が強い。

一方、税務当局は富裕層を中心とした過度な節税をかねて問題視し、今回の改正でも課税強化策をいくつか打ち出した。影響が大きいとみられるのが、故人が亡くなる前の一定期間に贈与した財産を相続財産に加算する仕組みの変更。加算対象の期間は現在3年間で、これを31年の相続から7年間に拡大する。7年分が対象になるため、24年1月の贈与から影響を受けることになる。

ただし相続財産への加算が適用されるのは被相続人の配偶者、子といった法定相続人で実際に財産を取得した人のほか、遺言で財産を贈る「遺贈」の対象者で生前贈与を受けていた人などだ。孫は被相続人の養子になっているなど一定の場合を除いて法定相続人に該当しない。生前贈与で受け取った財産は原則として加算せずに済むため、相続税を抑えられる。相続人が亡くなる直前に贈与して節税を図ろうとするケースもある。

では孫に生前贈与をするならどんな方法があるのか。まず知っておきたいのが暦年贈与。贈与では財産を受け取った人に税負担が通常生じるが、1年間に受け取った財産の額が基礎控除の110万円以下なら非課税となる。毎年110万円以下で贈与をすれば、贈与税を払わずに一定額の相続財産を減らすことができる。

富裕層ではあえて年110万円を超える金額を長期間贈与するケースも目立つ。相続財産が大きく減り、贈与税と相続税の合計が贈与をしない場合の相続税額より少なくなる場合があるからだ。見逃せないのが18歳以上の孫や子に贈与する際は特例税率が適用され、配偶者や兄弟姉妹に適用する一般税率に比べ有利になる点だ。基礎控除後の金額が400万円超600万円以下なら、特例税率は20%と一般税率の30%より低い。

暦年贈与以外にも有効な贈与手段がある。例えば教育資金や結婚・子育て資金の一括贈与非課税制度だ。年齢などで一定の条件を満たす孫や子を対象にまとまった資金を渡す際に贈与税がかからない。教育資金の非課税枠の上限は、もらう人1人当たり1500万円、結婚・子育ては1000万円となっている。暦年贈与に比べ一度に多くの金額を相続財産から減らすことができる。いずれも制度の期限が改正で23年3月末から延び、教育は26年3月末、結婚・子育ては25年3月末までとなった。

今回の税制改正では相続時精算課税制度で新たに年110万円の基礎控除が新設された。暦年贈与の基礎控除とは別の非課税枠で、18歳以上の孫や子への贈与が対象。「被相続人が死亡しても贈与財産は相続財産に加算されない」(税理士の藤曲武美氏)のが特徴だ。利用する際は暦年課税か精算課税のどちらかを選ぶ必要があるが、孫を持つ人にとって相続節税の手段が広がったといえそうだ。

孫への生前贈与では注意点もある。まず目配りしたいのは遺産分割のトラブルだ。節税を重視するあまり子を飛び越して多くの財産を孫に移したり、孫が何人かいる場合に特定の孫に贈与したりするようだと「親族の間で不満が出かねない」と辻・本郷税理士法人の浅野恵理税理士は話す。

教育、結婚・子育て資金の一括贈与では、財産をもらった人が年齢の上限を超えたときに使い残しがあると残額に贈与税がかかる。また被相続人が死亡した時点で使い残しがある場合は、原則として相続財産に加算する。教育資金は23歳未満なら加算しないが、今回の改正で4月贈与分から相続財産が5億円超なら年齢にかかわらず加算することになった。

将来の制度変更のリスクも頭に入れておきたい。税制改正の議論では「孫への生前贈与に一定の規制をしてはどうか」という意見も出たとされる。相続節税を考える際は孫の活用に限らず、幅広く検討することが必要だろう。(後藤直久)