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トルコ地震、浮かんだ死角 関東大震災型、耐震化遅れ突いた地盤災害 日本、都市の商業ビルに懸念

トルコ南部で起きた地震から1カ月強。被害の全容はなおも不明だが、東日本大震災や関東大震災と同じ「プレート境界型」で、このタイプの脅威を見せつけた。建物の耐震化の遅れや地盤災害、続発地震への警戒の薄さなどは日本の災害対策でも共通する課題で、他国の災害と看過せず今後の備えに生かしたい。

 

プレート型脅威

 

「阪神大震災とよく比較されるが、プレート境界型という点では関東大震災と同じタイプといえる」。マグニチュード(M)7.8を記録したトルコ・シリアの地震について平田直・東京大学名誉教授はこう話す。

一般に地震は1995年の阪神大震災のように活断層がずれるタイプと、地球を覆う巨大な岩板であるプレートの境界で起きるタイプがある。プレート境界型は日本周辺では南海トラフなど海沿いで起きるほか、1923年の関東大震災も陸のプレートと海のプレートが入り組む「相模トラフ」で発生した。

トルコ周辺でも「アナトリアプレート」に「アラビアプレート」が衝突している。ひずみが限界に達するとプレート境界が横ずれを起こす。本震の9時間後にM7.5が続き、トルコ、シリア両国で死者5万人を超えた。

全壊など大きな被害を受けた建物は20万棟を超える。耐震基準はあっても運用がずさんだったうえ、基準策定前に建てられ耐震性の低い「既存不適格」が放置されていたことも被害を広げた。

既存不適格の問題は日本も共通して抱えている。とりわけ懸念されるのが都市部にある中小の事務所ビルや商業ビル、住居兼用ビルなどだ。

阪神大震災が午前5時台に起き、就寝中に自宅が倒壊して亡くなった人が多かったため、日本では住宅の耐震化を最優先に掲げてきた。1981年施行の耐震基準を何割の建物が満たすかを示す「耐震化率」をみると、2018年時点で住宅は87%と、08年の79%と比べ確かに改善している。

しかし、商業ビルや工場、倉庫など「非住宅」では目標がなく、耐震化率も未公表で「ここが死角になっている」と福和伸夫・名古屋大学名誉教授は危ぶむ。非住宅は日本の建物全体の4分の1を占め、既存不適格は住宅よりかなり多いとみられる。

憂慮すべき数字がある。全国の自治体は古い建物のうち防災拠点となったり緊急輸送道路(避難路)沿いにあったりするビルを指定している。22年4月時点で防災拠点ビルは全国で724棟、避難路沿道ビルは5838棟あるが、耐震性を満たすのはそれぞれ67%、36%にとどまる。

「民間ビルを含めて既存不適格を解消する必要があり、それには公的負担で耐震診断を実施し、結果を公表する仕組みを取り入れるべきだ」と福和名誉教授は訴える。

 

液状化備え必須

 

トルコでは地盤の液状化も報告されている。地盤災害や土砂災害も詳しく調べ、国内の備えを再点検したい。

関東大震災では火災の延焼による死者が9万人に及んだが、丹沢山地や三浦半島などで土砂災害が多発し1000人以上の死者が出た。東京湾の埋め立て地や内陸の河川沿いで液状化も多発したとみられるが、科学的知見は十分ではない。

複数のプレートが交錯する地域では「誘発地震」と呼ばれる地震が起こりやすく、的確な注意情報を出せるかは避難や救援活動を左右する。統計数理研究所の尾形良彦名誉教授は「数時間から1日の間の余震を予測することは地震研究や防災の勝負どころ」と話す。

1994年に米カリフォルニア州ノースリッジで起きた地震では建物や高速道路が崩れ、約60人の死者が出た。日本の専門家は「日本では起こりえない」と真剣に向き合わなかった。その1年後に阪神大震災が起き、耐震基準や防災対策の根本的な見直しを迫られた。

トルコ・シリア地震も同じ轍(てつ)を踏まないように被害を直視し、教訓を学び取りたい。

(編集委員 久保田啓介)