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アジアの「隠れ債務」見過ごすな ハント・エコノミクス最高経営責任者 アンドリュー・ハント氏 ヘンダーソン・ロウ投資責任者 ベン・アシュビー氏

インフレへの対応に揺れる米連邦準備理事会(FRB)は、目に見えないものを恐れているのかもしれない。そしてその恐怖の源泉がアジアにある可能性もある。

銀行規制の変更により、グローバルな金融システムのリスクは規制の緩い影の部分に集中するようになった。アジアはこうした動きの中心となっている。

確かにアジアでは貯蓄が増加しているが、地域の金融システムはドル建ての与信への依存を続けている。世界銀行と国際通貨基金(IMF)の統計によると、韓国、インド、フィリピン、タイの借り入れはほとんどが外貨建てだ。

 

 Ben Ashby 英ケンブリッジ大修士。英HSBCなどで調査業務に従事。専門はポートフォリオのリスク分析 

 Ben Ashby 英ケンブリッジ大修士。英HSBCなどで調査業務に従事。専門はポートフォリオのリスク分析 

さらなるリスク要因もある。アジアでは多くの銀行が、不透明な外国為替市場を通じて巨額の借り入れをしている。こうした借り入れが何兆ドルに達するかは政府レベルも把握していない。

国際決済銀行(BIS)は最近の報告書で、世界にはバランスシートに載っていない20兆ドル(2700兆円)超の外貨建て債務が存在することに注意を促した。世界の国内総生産(GDP)の3割近くに相当する債務について、誰もどこにあるかを知らないという問題だ。FRBがこの怪物を恐れるのは当然かもしれない。

大半の人は、担保がついた債券の市場は安全だと考えているだろう。しかし2008年に起きた世界金融危機は、規制当局が債券市場についてどれほど無知であるかを明らかにした。

FRBは18年12月、19年9月、20年3月にも債券市場の出来事から窮地に陥った。市場が予想外に動くのはいつも、取引相手の破綻リスクが高まったときか、流動性が不足したときのどちらかだ。

19年には米国債の大量発行と借り換えの日程が重なり、市場に現金が不足した。18年には税制の変更、金融引き締めに向けた動き、大量の債券発行が流動性不足の根本的な原因だった。

そして23年の米国では、政府の債務上限問題が解決すれば、まもなく投資家への債券発行ラッシュが始まるだろう。欧州でも政府から欧州中央銀行(ECB)以外への債券発行が過去最高になると予想される。我々の推定では、ユーロ圏の国債発行の純額はGDPの8%以上に達する。

大量の債券発行と金融引き締めにより、ドルやユーロの流動性が枯渇する事態は想像に難くない。そうなれば金融システムの潤滑油である短期金融市場が正常に機能しなくなる恐れがある。

FRBはインフレ抑制を望んでおり、軽微な景気後退は目標を達成するための代償であるというシグナルを送っている。しかし金融危機の再発も、容認できるコストと考えるだろうか。

仮に危機が表面化した場合、アジアにとっての難問はFRBがどの国の救済を検討するかだ。日本のようにFRBとの間で予備的な借入枠を確保している国もある。しかし中国や香港はこうした枠を持たないため、国内の借り手が直面するドルの流動性不足を外貨準備に頼らざるを得ない。

FRBがこのような事態を恐れてさらなる引き締めをためらうのならば、インフレ上昇のお膳立てをしてしまった1970年代の失敗を繰り返すことになる。

最近の公表データは米国のインフレが続いていることを示している。行動の遅れを国内で正当化するのがますます難しくなり、アジアがその代償を支払うことになるかもしれない。