自己負担で設置するのと違い、ローンの借入額を増やさずに太陽光発電設備を導入できるのが利点だ。電気代や住宅価格の上昇も背景に住宅購入者の関心も高まっており、東京都や神奈川県は補助制度の拡充に動く。
初期費用ゼロで太陽光発電を導入できるサービスは「0円ソーラー」とも呼ばれる。ビジネスモデルはさまざまだが、事業者が無償で利用者の屋根に太陽光パネルを設置し、10年ほどかけて毎月の料金や余った電気の売電収入などで投資を回収するのが一般的だ。利用者からみると、初期投資を抑えて再生可能エネルギーを導入できるメリットがある。
0円ソーラーは脱炭素を急ぐ事業所で利用が広がる一方、住宅購入者の認知度は低く普及が遅れていた。2019年度に住宅向け補助を始めた東京都の場合、年々申請件数は伸びたものの、想定の6割ほどにとどまっていた。都地域エネルギー課は「認知度の低さに加え、新型コロナウイルスの影響で営業活動に制約があった」と話す。

ただ、電気代の高騰をきっかけに関心は急速に高まっている。20年度から補助を始めた神奈川県では、22年度の補助申請件数が約290件と21年度の補助実績から5割も増え、年度途中の11月には予算が底を突いた。県エネルギー課は「今後も電気代は高止まりするとみて、再エネの導入を検討する人が増えた」とみる。
関心の高まりを受け、0円ソーラーを取り扱う住宅メーカーも増えている。
アイ工務店(大阪市)は23年1月から東京ガスの「ずっともソーラー」を住宅購入者に提案し始めた。同プランは余剰電力の売電収入を東ガスに渡す代わりに、月額5500円で再エネを利用できる。発電容量4キロワットのパネルを載せた場合、契約期間10年間の支払総額は66万円だが、都の補助金を活用すると自己負担額は26万円にまで安くなる。
同社東京支店の渋谷明支店長は「ローン総額を増やさずに再エネを導入できるのが、0円ソーラーの利点だ」と話す。25年度から新築戸建てを対象に太陽光パネルの設置を義務化する東京都の施策を見据え、当面は都内限定で取り扱う考え。24年6月期は完工棟数の6〜7割にあたる約200棟へのパネル搭載を見込む。
東京都と神奈川県は再エネ普及の好機とみて、そろって補助制度を拡充する。
都は23年度、19〜22年度の累計実績の2倍弱に当たる3000件の補助申請を見込む。35億円の予算を確保し、補助対象に蓄電池も加えて太陽光パネルとセットでの導入を後押しする。神奈川県も5キロワット未満としている補助対象を10キロワット未満に引き上げる。400〜500件の申請を想定して事業費を22年度比5割増の9200万円に増やした。
0円ソーラーの「エネカリ」を提供する東京電力グループのTEPCOホームテック(東京・墨田)によると、発電容量3キロワットの太陽光パネルと容量4キロワットの蓄電池を設置すると月額約1万7000円かかるが、都の新たな補助金を使うと約5000円に抑えられるという。補助金を利用してパネル単体を導入するのとほぼ同じ月額負担となり、「都内はセット導入が標準になる」(同社)と期待する。
(上月直之)
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