米国の銀行破綻の余波が欧州に及んでいる。業績不振が続くスイスの金融大手クレディ・スイス・グループ株は15日に過去最安値を更新し、銀行株が軒並み売られた。欧州銀行株の急落は米国市場にも跳ね返り、米地銀株などが大幅に下げた。スイスの金融当局は同日、事態の沈静化に向けて「必要な場合はクレディ・スイスに流動性を供給する」と表明した。
同日の欧州株式市場でクレディ・スイス株は前日比0.543スイスフラン(24%)安の1.697スイスフランで引けて過去最安値を更新した。クレディ・スイスへの懸念が高まるのは2022年12月期まで2期連続の最終赤字が続くためだ。顧客からの預入資産も流出し、今後の経営の柱ともくろむ富裕層向けビジネスの成長も見通しづらい。
15日に筆頭株主のサウジ・ナショナル・バンクが追加投資しないと伝わったのが追い打ちをかけた。14日に過去の財務報告の内部管理に「重大な弱点」があったと発表したばかりだった。
債務不履行(デフォルト)を警戒した取引も出ている。米ブルームバーグ通信によると、デフォルトリスクを織り込むクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)市場では、同社の1年物が一時10%超と異例の高水準を付けた。26年満期の社債利回りは米国債を20%上回る水準まで上昇した。

欧州の主要600社で構成される株価指数ストックス600は15日に前日比3%安の436.45と約2カ月ぶりの安値まで下落した。銀行株の下げが大きい。オランダのINGグループが10%安、ドイツ銀行やイタリアのウニクレディトが9%安となった。
米銀シリコンバレーバンクの破綻を招いた含み損のある保有債券に対する潜在的なリスクも出ている。米ムーディーズが13日に発表した試算では、21年12月に欧州銀全体の債券の時価は簿価を1.3%下回っていたが、22年12月には8.9%まで拡大した。債券を損失覚悟で売らざるを得ない状況は発生しにくいが、潜在的なリスクを投資家は警戒する。
欧州株式と社債を運用するロンドンのあるファンドマネジャーは「破綻した米銀と欧州の大手銀の財務状態は違うとわかっていても疑心暗鬼とならざるを得ない。いまの株価が底なのかが見えないため、押し目買いを入れるのは難しい」と話す。
英キャピタル・エコノミクスのアンドリュー・ケニンガムチーフ欧州エコノミストは「収益性の低さに苦しんでいた銀行はクレディ・スイスだけではない。22年の英国債急落や米銀行破綻と問題が続いており、この先も何も問題が起きないと考えるのは愚かだ」と警戒する。
クレディ・スイス株の急落は、今回の金融システム亀裂の発端となった米国市場にも及んだ。前日に反発していた米中堅銀行の株価は再び下落。ファースト・リパブリック・バンクは一時前日比26%安となった。米大手格付け会社S&Pグローバル・レーティングなどが投機的等級に格下げしたことも重荷になった。
スイス国立銀行(中央銀行)は15日、スイス金融市場監督機構(FINMA)と連名で「クレディ・スイスはシステム上重要な銀行に対する資本や流動性の要件を満たしている」との声明を発表した。必要な場合はスイス国立銀行が流動性を供給するとも明らかにした。
声明後に米地銀株など下げ幅は縮小した。ダウ工業株30種平均は下げ渋り前日比280ドル安(0.9%安)の3万1874ドルで終えたが、市場では銀行経営に対する懸念が依然くすぶっている。米オアンダのエドワード・モヤ氏は「流動性に脆弱さを抱える銀行は、資金調達コストの急上昇に直面する可能性が高い」と指摘していた。
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