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子供持たない理由 女性はキャリア、男性はお金に不安 「#生涯子供なし」日経読者アンケート㊦

そこからは男女の考え方の違いや子供を持つことの負担感の女性への偏りが見えた。

結婚願望、男性の方が強く

調査は日経リサーチと共同で2月16〜20日、日経電子版などの利用に必要な「日経ID」の所有者を対象にオンラインで実施した。3421人から回答を得た。そのうち子供がいない人は1599人だった。

子供がいない人にその理由を1つ尋ねたところ、男女ともに最も多いのは「結婚を希望したが、結婚していないから(パートナーがいないから)」だった。

ただ、性別年代別にみると傾向に違いがあった。

全年代で、「結婚を希望したが、結婚していないから」は男性が女性より多く、「結婚を希望せず、結婚していないから」は女性が男性を上回る。

「仕事を優先したい(したかった)から」は、全年代で女性が男性を上回る。全年齢の合計でも、女性(11.6%)が男性(5.3%)の2倍だった。

「経済的な余裕がない(なかった)から」は、全年代で男性が女性を上回る。40代では男性(10.6%)が女性(1.2%)の9倍近い。

中央大学の山田昌弘教授(家族社会学)は男女差の背景について「キャリア女性は結婚や出産によるキャリアの中断が不安。男性は自分だけの収入では不安という点が見える」と見る。

「子供がいなくて困っていること、不安なこと」を複数回答で聞いたところ、「ない」が48%で最も多かった。ただ、老後への不安は大きかった。

「社会に望むこと」を複数回答で聞いたところ、若い世代では「子育ての経済的な負担軽減」、中高年世代では「家族がいなくても安心できる老後の政策」が多かった。

子育ての負担、女性に偏り

子供がいる人にも質問した。

子供を持ったことで負担になったことを複数回答で尋ねたところ、男女とも最も多いのは「経済的負担の増加」だった。性別年代別にみても大きな差はなかった。

そのほかの項目では、回答に男女差があった。

「仕事でのキャリアアップの鈍化・停止」は全年代で女性が男性を上回った。全年齢の合計でも女性(43.7%)が男性(5.7%)の8倍近くだった。

「心理的負担の増加」も30代以上で女性が男性を上回った。一方、「特にない」は40代以上の男性で多かった。子供を持つことによる負担感が女性に偏っていることが浮き彫りになった。

子供の有無にかかわらない全員への質問も設けた。

「子供がいた方がいいと思いますか」には、8割が「そう思う」(「とてもそう思う」と「ややそう思う」の合計)と答えた。「とてもそう思う」は男性が50.1%、女性は24.4%だった。

「結婚をした方がいいと思いますか」も、8割が「そう思う」(「とてもそう思う」と「ややそう思う」の合計)と答えた。「とてもそう思う」は男性が42.6%、女性は18.5%だった。日経の読者では男性の方が、女性より子供や結婚を望む傾向が強かった。

日本、先進国で突出

人口学では、女性で50歳時点で子供がいない場合を学術的に「生涯無子」(チャイルドレス)として指標にしている。経済協力開発機構(OECD)のデータベースで最新となる1970年に生まれた女性の50歳時点の無子率を比べると、日本は27%と、比較可能なデータがある17カ国のうちで最も高い。

男性は一般的に生殖可能期間が長いため、生涯無子の判定が難しくデータはない。未婚率を考えると女性より高いとみられている。子供がいない場合、社会的に孤立する傾向も強い。男性の人生にも深く関わる問題だ。

身体上の問題により、望んでもかなわない人が一定数いるほか、「チャイルドフリー」と表現される、子供がいない人生を積極的に望む人もいる。生涯無子率を取り上げるときに、「子供を持つべきだ」という価値観の押しつけがあってはならない。

ただ、回答の男女差などをみると、個人のライフスタイルの選択であると同時に、社会の枠組みにより子供を持つ持たないが大きく左右されていることがわかる。

特に女性の場合、86年に施行された男女雇用機会均等法第1世代である65〜70年生まれは、50歳時点で子供がいない人の割合が高い。働く女性が増えたものの両立支援は進まず、退職して出産か子供を持たずに働くかの選択を迫られ、子供を持たないことを選んだ女性も多かった。

欧米では生涯無子率の増加の勢いが収まってきている。これは、両立支援などが進み、少なくとも1人は子供を持てるようになっているとみられている。日本は出遅れ、生涯無子率が先進国で突出してしまっている。

(福山絵里子)

「持たない」より「持てない」

三菱UFJリサーチ&コンサルティング主席研究員 矢島洋子さん

アンケート結果に表れた男女差からは、まず女性のほうが子供を持つ負担が大きいということがわかる。現状では女性は、出産・子育てで大きく人生設計が変わらざるを得ない。

男性が経済的な不安を持っているのは、男女とも、男性には生計を担うだけの稼ぎを得る責任があるという性別役割分業の意識が根強いのだと思う。

「子供を持たない人が増えている」というより、どちらかというと「持てない」が正しいのではないか。

例えば、「管理職になりたがらない女性が多い」といわれることがある。女性本人の意思とみられがちだが、実際は環境要因が大きく、環境が変われば希望も変化する。

それと同じで子育て環境を整えるべきだ。働き方や性別分業の見直しなど、やるべきことは1990年代からわかっている。それを十分にやってこなかったことが問題だ。「少子」という状態が長く続き、それになれてしまっている問題も大きくなっている。
子供を持ちたい人が持てるように、産み育てやすい環境、子供が健やかに育つ環境を整備する。それは出生数や出生率に関わらず、常に国が取り組むべき課題だ。

喫緊の課題は経済的な負担軽減だ。特に教育は日本は公的な負担比率が低い。他の先進国は、国が率先して国民に教育をうけさせたいと必死なのに、日本は自己責任という風潮が強い。若者が奨学金という名の多額の借金を抱えて社会に出ていくようなことは改めるべきだ。