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TX東京延伸、臨海地下鉄接続案で再浮上 大深度が課題に 首都圏 鉄道新地図③

巨額の建設費や大深度の地下工事など課題はあるが、茨城県内延伸との一体整備案や、東京駅(東京・千代田)と臨海部を結ぶ「臨海地下鉄(仮称)」との接続案など、延伸を後押しする機運が出てきた。

3月上旬の平日朝。TX秋葉原駅(東京・千代田)の改札からJR秋葉原駅(同)に向かうエスカレーターには、マスク姿の通勤客が長い行列をつくっていた。TX秋葉原駅は地下30メートル以上の深さにあり、駅ホームから地上にあるJRに乗り換えるには、エスカレーターを5本乗り継ぐ必要がある。通勤ラッシュ時は10分程度かかる。

TXには秋葉原駅から東京駅方面と、つくば駅(茨城県つくば市)から茨城県内方面の2つの延伸構想がある。東京駅延伸計画は具体化していないが、高層オフィスビルが立ち並ぶ東京駅周辺で新駅を建設するには、地下深くに建設せざるを得ない。

そのため、秋葉原―東京間のわずか2キロメートルほどを結ぶために、巨額の事業費が必要になることが課題だ。国土交通省の交通政策審議会は2016年、TX延伸を単独で整備した場合、総事業費が約1400億円かかると試算した。

東京都は22年11月に臨海地下鉄の事業計画を発表した際、東京駅でのTXとの接続検討にも言及した。つくば駅から東京駅を経由して有明・東京ビッグサイト(東京・江東)まで1本でつながれば、利用客の伸びが見込める。TX東京延伸と臨海地下鉄を一体開発すれば、事業費の圧縮効果も期待できる。

05年に開業したTXは、沿線の埼玉県や千葉県、つくば市などで開発投資を呼び込み、大幅な人口増をもたらした。東京延伸は、千葉県流山市や柏市など沿線自治体が長年要望してきた。

ただ秋葉原―東京間の具体的なルートや建設時期は決まっていない。在宅勤務が普及し、「住宅環境を求めて茨城に移住した。現状のTX路線図に特に不満はない」(茨城県守谷市の30代会社員)との声もある。

TXは6両編成から8両編成に増やすため、ホームの延伸工事を進めている

茨城県内では、つくば駅以北の延伸方向を巡る議論が大詰めを迎えている。県の諮問を受けて協議してきた第三者委員会が31日、最終会合を開催。筑波山、水戸、茨城空港、土浦のなかから1つに絞り込み、大井川和彦知事に提言する。

県は23年度の早い段階で延伸方向を決める計画だが、TX東京駅延伸が交通政策審議会で早期実現を指摘されているのに対し、茨城県内の延伸は同審議会で議論されていない。県が延伸方向を決めても、同県だけで巨額の建設費を負担することは難しい。

そこで、茨城県としては東京駅延伸計画と一体で機運を盛り上げたい考えだ。大井川知事は「東京都や千葉県、埼玉県の協力を得る必要がある」との認識を示す。首都圏広域の鉄道延伸計画とすることで、交通政策審議会の「議論の俎上(そじょう)に載せたい」(県関係者)との思惑がある。

新型コロナウイルス禍で利用客が落ち込んだ影響で、TXを運営する首都圏新都市鉄道(東京・千代田)は、秋葉原―つくば間の整備費用として借り入れた資金の返済が重荷になっている。

通勤時の混雑緩和も待ったなしで、6両編成を8両編成に増やすためのホーム延伸などの設備投資が、鉄道の延伸計画より優先課題となっているのが実情。秋葉原駅で乗り換える通勤客の行列が短くなるには、まだ時間がかかりそうだ。

(松隈未帆)