ただ新型コロナウイルス禍で鉄道の乗客数は落ち込み、少子化が加速するなか、巨額投資へのハードルも高まっている。首都圏鉄道網の未来を追った。
外国人の姿が戻り始めた3月上旬の東京・銀座。「これで新しく地下鉄ができたら、会社員やインバウンド(訪日外国人)がさらに増える」。シガーグッズ専門店を営む内藤裕幸さんは声を弾ませた。東京都が22年秋に発表した「臨海地下鉄(仮称)」の事業計画への期待がこもる。
東京駅と有明など臨海部をつなぐ同計画のもとになったのも交通政策審議会の答申だ。つくばエクスプレス(TX)の東京駅延伸、東急電鉄の羽田空港直結など計24路線の新線や延伸などが盛り込まれている。
答申は「地域の成長に応じた鉄道ネットワーク充実」を掲げるが、実情は首都圏でも始まった人口減少下で沿線の人口維持を狙う鉄道会社の思惑がある。沿線住民の高齢化が進み、都心へのアクセスを充実させて若い世代を呼び込まないと、沿線の地価にも影響しかねない。
05年に開業したTXは秋葉原が終着で、東京駅への延伸は駅の建設場所などが定まらない。臨海地下鉄は、TXとの接続検討が答申に明記された。人口増にもかかわらず交通網が整備されていない臨海部の鉄道整備にTXの東京駅選定が後押しされそうだ。
迂回して羽田へ
東京南西部は羽田空港に近いにもかかわらず、鉄道は乗り換えで迂回する必要がある。このため、東急東横線―多摩川線を経由して蒲田から羽田方面につながるルートは東京都渋谷・世田谷区の住民の悲願ともなっている。
第一歩が東急蒲田駅と京急蒲田駅のわずか800メートルを結ぶ通称「蒲蒲線」。大田区は開通を前提に街づくりを計画するが、肝心の羽田空港までの路線乗り入れ計画は進まない。

原因の一つはレール幅。空港に乗り入れる京急より、東急は約40センチメートル狭い。乗り入れにレールを3本敷く「三線軌条」などが検討されているが、議論は進んでいない。
相模鉄道は19年のJR乗り入れに続き、東急と接続して「新横浜線」が18日に開業する。相鉄は横浜が終着のローカル線だが、首都圏の広域ネットワークの一部として沿線活性化に期待をかける。
岐路に立つ経営
人口減が進むなかでも路線拡張が進む背景には首都圏の高齢化がある。「通勤地獄」をいとわず郊外に住宅を求めた高度経済成長期の会社員らが定年退職を迎えた。郊外の住宅地に子供世代は同居せず、かつてのニュータウンが衰退。鉄道経営は岐路に立つ。アクセス向上で利用客の争奪戦になっている。
ある私鉄幹部は「郊外への鉄道延伸で沿線の住宅・商業開発を進めた鉄道のビジネスモデルが崩壊しつつある。都心に近い路線の充実という縮小均衡型の事業展開が欠かせない」と話す。
ただ、こうした未来に立ちはだかるのがコロナ禍。在宅勤務の定着で、鉄道各社は乗客数を大きく落とした。不動産コンサルタントで都市の高齢化に詳しい牧野知弘オラガ総研社長は「東京へのアクセスを重視する『昭和・平成型』の思考で計画された鉄道計画はもはや時代に合っていないのでは」と交通政策審議会の方針を分析する。
牧野氏は「都心延伸ではなく、今後は沿線都市でも『働く』『住む』『遊ぶ』という生活が完結するまちづくりが求められる」と話している。
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