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「陸の孤島」東京・晴海に地下鉄構想 実現までバス頼み 首都圏 鉄道新地図②

「活発に移動するファミリー層が増え、バスは混雑し、道路は渋滞している。早く鉄道をつくってほしい」。東京都心と臨海部をつなぐ地下鉄新線の誘致を目指す地元協議会のメンバー、宮森孝一さんは話す。

宮森さんが住む勝どき、晴海などがある月島(東京・中央)エリアは高層マンションの建設が相次ぎ、人口が増え続けている。公共交通網は都営大江戸線や路線バスなどに限られ、駅の混雑や交通渋滞が課題となっている。

特に晴海の埋め立て地は鉄道駅がない「陸の孤島」だ。最寄りの大江戸線勝どき駅まで、橋を渡って徒歩20分ほどかかる。

「晴海フラッグ」には1万2000人が移り住む見通しだ(東京都中央区)

その晴海の西端に東京五輪の選手村として建設された巨大マンション群「晴海フラッグ」。4000戸ほどの分譲はほぼ完売し、24年春から約1万2000人が順次移り住む見通しだ。

新たな通勤需要に応えるため、東京都は晴海―新橋・虎ノ門間で試運転しているバス高速輸送システム(BRT)を本格稼働し、毎時最大2000人を輸送する計画を立てている。

4月1日からは昨年末開通した環状2号線新橋―築地間の地下トンネルを通ることで、勝どき―新橋間の所要時間を現在の7〜8分から4分に短縮。豊洲市場や東京テレポート方面の運行ルートも新設する。

2月下旬の平日朝、記者は晴海からBRTに乗車してみた。勝どきを経由し、新橋駅に到着するまで赤信号で停止することも少なく、大きな渋滞もなかった。晴海に住む30代男性は「通勤の時間帯によって少し混雑するが、特に不満はない」と話す。

ただ、晴海フラッグの入居者が「どの交通手段を選ぶか、BRTが混雑するかどうかは分からない」(交通関係者)。中央区も定員35人ほどのコミュニティーバスを20分に1本程度運行する計画だが、急激な人口増に見合った輸送手段になるのか不透明だ。

24年春の本格稼働を目指し、プレ運行しているBRT(東京都中央区)

「地域がさらに発展するには、一日も早く整備しなければいけない」。臨海地下鉄新線の誘致を目指す協議会が勝どき駅近くで2022年11月上旬に開いた大会。集まった450人の参加者を前に、鈴木久雄幹事長が熱弁をふるった。

こうした地元の声に応えるように、東京都は同月下旬、東京駅から有明をつなぐ「臨海地下鉄(仮称)」の事業計画案を発表した。交通政策審議会が事業化に向けて検討を深めるべきだと答申したことを受け、都が国や有識者と検討を続けてきたものだ。

東京駅を起点に銀座や築地、勝どき、晴海、豊洲市場を経由して有明・東京ビッグサイトまでの約6キロメートルを結ぶ。7駅新設し、事業費は4200億〜5100億円。小池百合子都知事は東京五輪で臨海部に整備した競技会場や選手村などのレガシー(遺産)を生かした街づくりを掲げており、40年までの開業を目指す。

ただ新型コロナウイルス禍が落ち着き、五輪関連施設でのイベントが増えると、都心から訪れる観光客が急増。バスが満員となり「子どもが乗れず、豊洲にあるスポーツクラブに間に合わなかった」「バスに乗れないのでベビーカーを押して有明の商業施設まで歩いて行った」といった不満の声が、築地や月島エリアの住民から相次いでいる。

築地市場跡地や東銀座でも再開発が計画され、月島エリアへの来訪者は今後さらに増えそうだ。協議会の宮森さんは「新線が開通しても、勝どき駅の混雑を避ける対策は必要になるだろう」と話す。

千葉市や神戸市、福岡市などの臨海埋め立て地では、商業や住宅の集積が進んだ後も、域内や都市部との交通回遊性の低さが課題となっている。東京臨海部も利便性の高い交通網の整備を置き去りにしたまま開発だけが進めば、将来同様の課題に直面する可能性がある。

(森岡聖陽)