神奈川・東京・埼玉の3都県14路線にわたる広域ネットワークが結ばれ、新幹線を含むアクセスが大幅に改善する。ただ、需要予測は当初見通しから減っており、長期的に乗客を確保していく工夫が問われる。
新横浜線は横浜市内を通る東急東横線の日吉駅と相鉄線の羽沢横浜国大駅をつなぐ約10キロメートルを新設して、相鉄の西谷駅までいたる。中間駅では新綱島駅と新横浜駅が新設される。
構想が持ち上がったのは2000年だ。西谷駅と羽沢横浜国大駅を結び、都心につながる相鉄・JR直通線(19年に先行開業)を含む「神奈川東部方面線」として整備が進んできた。整備主体は鉄道建設・運輸施設整備支援機構で、営業運転は相鉄と東急が担う「上下分離方式」を採用した。総事業費は約4000億円に及ぶ。
新路線は相鉄にとって、またとない事業機会になる。同社は横浜駅を起点に全路線が神奈川県内を走行している。大手私鉄の中でも営業路線が短いうえ、交通利便性のよい他地域への人口流出が進み、都心と直結する路線整備が長年の課題だった。
新横浜線の開業で相鉄線の利便性は大きく改善する。1日で上下線あわせて約200本が計画され、平日朝のラッシュ時には最大1時間16本を運行する。
例えば、相鉄いずみ野線の湘南台駅(神奈川県藤沢市)―東京メトロ副都心線の新宿三丁目駅(東京・新宿)は最速59分、相鉄本線の海老名駅(神奈川県海老名市)―都営三田線の大手町駅(東京・千代田)は同70分と首都圏の通勤・通学圏が広がる。
神奈川、東京、埼玉を結ぶ直通運転も登場する。相鉄本線の海老名駅から東急目黒線、東京メトロ南北線を経て、埼玉高速鉄道・埼玉スタジアム線の浦和美園駅(さいたま市)まで1本で往来できる。5日の完成式典で、東急電鉄の福田誠一社長は「総延長250キロメートルという広域のネットワークが形成される」と力を込めた。
東海道新幹線への接続に対する期待も大きい。新駅の「新横浜駅」は相鉄・東急の両社にとって初めて新幹線に乗り換えられる駅となる。名古屋・大阪方面へのアクセスが向上し、ビジネス客などの利用増が見込める。
相鉄の千原広司社長は「沿線を知ってもらう大きな機会」と期待する。不動産情報サービスのLIFULL(ライフル)が9日公表した調査によると、相鉄沿線では居住用賃貸物件の賃料が22年12月~23年2月に前年同期と比べて2割あまり上昇した駅もある。
新横浜線の沿線では再開発投資も活発だ。新綱島駅周辺では、近くにある東急東横線の綱島駅と一体で開発が計画され、高層マンションや商業施設などが入る複合施設の建設が進められている。
課題は当初見込みから下方修正された需要の行方だ。新型コロナウイルス禍前の推計では、開業数年後に相鉄側の新横浜線で1日21万7000人の輸送人員を見込んだが、38%減の1日13万5000人程度に引き下げた。
横浜市の人口頭打ちも重なる。全国の市で最多ながら、1月1日時点の推計人口は376万9595人。前年同期比で2434人減り、2年連続の減少となった。
リモートワークの定着など都心に通う就労スタイルに変化が起き、少子化もあって首都圏の鉄道利用者は長期的に減る可能性がある。広域に移動できる新横浜線ならではの魅力を継続して高める戦略が、鉄道会社や沿線自治体に求められている。
(二村俊太郎)
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