プロサッカー選手の本田圭佑氏は日本経済新聞の取材に応じ、本田氏個人のファンドを通じて、東南アジアのスタートアップ企業を支援する考えを明らかにした。サッカーと起業には「似ているところがある」と指摘し、トップ選手としての経験をいかして投資を判断する意向を示した。
訪問先のジャカルタでインタビューに応じた。本田氏は2016年に設立した個人ファンド「KSKエンジェルファンド」を通じて、起業間もないスタートアップなどを支援する「エンジェル投資家」としての顔を持つ。このほど、インドで電動三輪車を手掛ける企業にも少額出資した。
個人資金で投資するため、1回の投資額は数百万円程度からと比較的少額とみられるが、サッカーのトップ選手として培ってきた逆境のはねのけ方やモチベーションの上げ方などを創業者に助言して支援する点がユニークだ。「キャピタル以上に感謝される」と話す。こうした助言が投資失敗のリスクを回避する手法の一つにもなるという。
本田氏は投資機会を探るため東南アジア各国を訪れる頻度を増やしている。東南アジアの市場としての魅力について、「人口と平均年齢は絶対的な数値で、それをベースに『(投資を)張る』だけでも間違いない」と話した。

競技人口が多く、選手として成功すると報酬が大きいサッカーに東南アジアへの投資をなぞらえ、「もっと人とお金が集まるようになれば、とんでもない競争力になる」と語った。東南アジアは6億6000万人超の人口を抱える。5〜19歳が25%を占め、今後も増加が見込める。
注目する国にインドネシアを挙げた。消費者向けビジネスに関心を持っており「若い世代の新しいサービスへの感度がいいイメージがある。アイデアマンも多い」と述べた。コールドチェーン(低温物流)関連など投資が実現しそうなスタートアップがあり、23年に同国で計10件の投資をめざす考えを表明した。
ベトナムへの関心にも言及した。「インドネシアほど詳しくないが、僕の中で仮説は立てていて、国民性がすごく勤勉で、昔の日本人気質があることは何となくつかめている」と話した。人事分野の課題を解決する技術「HRテック」について「国民性とかなり相性がいいと注目している」と強調した。
スタートアップへの投資はビジネスモデルよりも創業者とそのチームの素質に焦点を当て判断しているという。「ビジネスを深掘りしていくのが典型的なベンチャーキャピタリストだとしたら、僕はまさにその人間版だ」と強調した。創業者のこれまでの人生を掘り下げる質問をし、1回目の面接で投資を決めることも少なくない。
サッカーと起業に関し「似ている部分はある。(選手経験が投資に)すごく生きている。特に難しい局面での乗り越え方とか」と指摘した。目標設定や、目標への近づき方、組織論、勝敗が明確になることなどを共通点として挙げた。自身を含め世界のトップ選手が成功に向けてどういう経験をしたか熟知している点も強みだという。
本田氏が投資を始めたきっかけは貧困や格差の解決につなげたいと考えたからだ。サッカーの試合で世界を駆け回るなかで、貧困のため自分のやりたいことができない子どもたちを目の当たりにした。「貧困や格差社会を劇的に変えるブレークスルーのテクノロジーに出合えるのではないかというところから始めた」と明かした。
投資の際、自身のサッカー選手としての経験や感性を大切にし、過去のデータを重視したパターン化された手法と一線を画す。「パターンから外れている人の特大ホームランを狙い続けている」と語る。
一方、日本のスタートアップには物足りなさも感じる。「最初から外を見て、ビジネスを始める人はかなり少ない。日本のマーケットを取りにいく」と述べた。自らには欧州のトップリーグをめざしたロールモデルとして三浦知良さんや中田英寿さんがいたとして、スタートアップでも外国で成功する先例を増やす必要性を指摘した。
本田氏は個人ファンドのほかに、共同でベンチャーキャピタル(VC)の運営にも携わる。これまでに日本や欧米、アジア、アフリカなどのスタートアップ約180社に投資をしてきた。現在の肩書を「挑戦者」と語る。
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