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旅先、花粉少ない「避粉地」へ

冬から春へと移り変わる3~4月は、外出が楽しくなる時期だが、花粉症に悩む人にとっては1年でもっとも憂鬱な季節だろう。花粉から逃れて滞在できる場所を探った。

沖縄県・竹富島にあるリゾート施設「星のや竹富島」は5月31日まで花粉症の人向けのプログラム「避粉春風(はるかじ)ステイ」を提供している(4月29日~5月8日は対象外)。

屋外で春を楽しむプログラムを提供する「星のや竹富島」

同施設広報の長谷川丹菜さんは「春の陽気を楽しみたくても花粉のせいで我慢している人は多いと思う。滞在中は気持ちを解放してリフレッシュしてほしい」と企画の狙いを話す。

長谷川さんによると、沖縄では高木のスギやヒノキは台風や強い風に耐えられないので、他地域と比べてほとんど生育していないという。

実際に花粉症の滞在者から「花粉で外出を控えていたが、屋外を楽しめるのがうれしい」「花粉の存在を忘れて過ごせた」などの声があるという。

プログラムは1人2万5410円(税・サービス料込、宿泊料別)。ランチやスパトリートメントなどを含み、屋外体験が柱となっている。ランチ前には、施設内の畑で「命草(ぬちぐさ)」と呼ばれるハーブ摘みを体験。その後、オープンエアの東屋で地元食材を生かしたランチを楽しむ。

客室には、椅子型のハンモック「チェアモック」や島の植物で作った枕やゴザを用意。窓を開けると南から北へ風が通り抜ける造りになっているので、春の風を感じながら寛ぐことができる。

長谷川さんは「沖縄八重山エリアは夏を迎える前の過ごしやすい時期なので、花粉に悩まされず気分転換する時間をつくってみては」と提案する。

釧路市は「花粉ゼロ」をPRし、長期滞在を促している

北海道で約10年前から「花粉ゼロ」のPRを続けているのは、釧路市内の宿泊業や不動産業者などで作る「くしろ長期滞在ビジネス研究会」。事務局を務める釧路市市民協働推進課の笹森俊哉さんは「そもそも北海道内自体スギやヒノキは少ないが、釧路地域には自生しておらず花粉はほぼないといえる」と力を込める。実際に花粉症治療のために長期滞在する人もいるという。

同研究会では賃貸アパートやマンションの一部の部屋を長期滞在者向けに用意。洗濯機や冷蔵庫など滞在に必要な家電を備え付け、身の回りの荷物だけで滞在できるようにしている。長期滞在割引や専用の宿泊プランを設けているホテルもある。

また、4泊以上の滞在者を対象に、図書館など一部施設が市民と同じ条件で利用できる「くしろステイメンバーズカード」を釧路市が発行し、長期滞在を後押しする。

笹森さんは「花粉症の人にとってはオアシス的な環境。バードウオッチングや温泉、湿原などを楽しみに来てほしい」とアピールする。

東京都心から南に約1000キロ、世界自然遺産に登録された小笠原諸島もスギやヒノキと無縁の環境だ。小笠原村観光局の根岸康弘さんはワーケーションを兼ねた滞在を提案する。

主な滞在先となる父島までの交通手段は船のみだ。東京・竹芝桟橋から出航する定期船「おがさわら丸」の所要時間は24時間、ほぼ6日に1便。訪問のハードルは高そうに見えるが「もともと1週間単位で計画する旅行地。仕事をしながら観光も楽しむというスタイルはずいぶん前からある。コロナを機にいろいろな働き方ができる環境が整ってきた今だからこそ、ハードルは低くなっている」と根岸さん。「高速インターネット回線も使えて、リモートワークの環境は整っている」と続ける。

来島者からは花粉のない環境を実感する声を聞くという=小笠原村観光局提供

実際に来島した花粉症の人からも「深呼吸ができた」「マスクが外せた」と花粉のない環境を実感した声を聞くという。根岸さんは「船に乗った瞬間から旅の始まりを実感できるのも小笠原の魅力。4月まではザトウクジラのホエールウオッチングのベストシーズン。海や星空だけでなく、山のアクティビティーも楽しめる」と魅力を話す。

環境省は、今春のスギ花粉飛散量を、関東、北陸、近畿、中国地方などで、過去10年で最大量になると予測している。同省の花粉情報サイトでは、各地の花粉飛散状況を確認できるので、情報を基に「避粉地」を探して滞在してみてはどうだろう。

(ライター 李 香)