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日銀総裁に植田氏決定 市場・政治と対話、試練 現実派、政策の限界認識

経済学者の植田和男氏を日銀総裁とする人事案が10日、国会で同意を得た。植田氏は4月8日に任期満了となる黒田東彦総裁の後任として、10年続いた異次元緩和を引き継ぎ、段階的な修正を探る役割を担う。金融政策研究の第一人者で日銀審議委員の経験もある植田氏は、理論だけでなく政策決定の現場にも通じた現実派だ。政治や市場を説得し、決断を押し通す胆力も試される。

 

植田氏は4月9日、副総裁として承認された内田真一日銀理事、氷見野良三前金融庁長官は3月20日に就任する。任期は5年。歴代総裁は日銀と旧大蔵省(現財務省)出身者が多く、民間出身は1964年に就任した宇佐美洵氏以来となる。

最大の課題は10年続いた異次元緩和の修正だ。円高是正などに効果があったとされるが、日銀の国債保有額が発行額全体の5割を超え、市場機能低下や財政規律の緩みといった副作用も生じた。

日銀総裁に経済学者が就任するのは初めて。植田氏は理論派として金融政策の地平を切り開いてきたアイデアマンで、リスクとリターンを冷静に見極めて政策判断できる現実派との評価もある。

1998年から2005年まで日銀審議委員を務めた。市場の予想に働きかけて中長期金利を低く抑える「時間軸政策」の考案者で、ゼロ金利政策や量的緩和を導入する際の理論的支柱だった。時間軸政策は、金融政策の先行き指針(フォワードガイダンス)として世界に広がった。

植田氏を待ち受ける情勢は厳しい。政策の副作用は強まっているが、賃上げを伴う安定的な物価2%上昇の実現は道半ばだ。急激な政策転換は経済を冷やしかねない。

植田氏は2月に国会の所信聴取で「金融緩和を継続し、経済をしっかり支える」と語った。「工夫を凝らしながら継続することが適切」とも述べており、短期金利はゼロ近辺で維持しながら、長期金利を抑えつけるイールドカーブ・コントロール(長短金利操作)の修正を探るとみられる。

「完全に自力ではデフレを克服する道具たりえない」。植田氏は05年に著書「ゼロ金利との闘い」で、大規模緩和を約束して物価を押し上げようとする政策の限界を指摘した。デフレ脱却のための緩和は「金融政策以外の力を借りて初めて効果を発揮する」とした。

この考えは2月に国会で表明した「私の使命は魔法のような特別な金融緩和を考えて実行することではない」という言葉と重なる。持続的な成長には、政府や企業の取り組みが不可欠だ。

為替市場では円安が再び進み始めており、抑制のために日銀が緩和修正するとの思惑から国債の空売りが膨らむリスクがある。植田氏は就任初日から黒田日銀が苦しんだ投機筋との戦いに身を置く。学者出身の植田氏は、政治的な人脈や経験に乏しい。景気悪化などの逆境に陥った際の対応を不安視する向きもある。