スクウェア・エニックス・ホールディングス(HD)は桐生隆司取締役(47)が社長に昇格する人事を発表した。6月に正式に就任する予定。松田洋祐社長(59)は退任する。メタバースやWeb3など新しいトピックが生まれ、業界にとどまらない知見や取り組みが求められている。新鮮な感性を持つ次世代の経営者に荒海のカジ取りを託す。

「スクウェア・エニックスに変化と進化をもたらすことが最初の使命」。3日、記者会見に臨んだ桐生氏は神妙な面持ちでこう話した。10年間背負った肩の荷が下りたのか、時に笑顔も見せながら質問に応じる松田社長と見比べると、緊張ぶりが一層際立っていた。
1998年の大学卒業後、電通に入社した。マサチューセッツ工科大学経営大学院で経営学修士号(MBA)を取得し、経営企画など管理部門の経験も長い。2020年にスクエニHDに転じ、翌年には最高戦略責任者に就いた。業界経験は短いが、松田社長は「やり遂げる意志が非常に強い」と評価する。
「今進めている戦略を踏襲する。Web3は次の成長につながる事業だ」と桐生氏。まずは23年発売予定の「ファイナルファンタジー16」を成功させ、外注が多い開発体制の内製化を進める。中長期にはブロックチェーンなどWeb3関連の投資や技術開発に取り組む。松田社長は記者会見で「私は古い人間」「これまでの経験は通用しない」と謙遜したが、大枠の方向性はすでに示されている。
桐生氏はグループ経営の重要さも語った。アミューズメント施設では大手の一角を占めるタイトーを傘下に持ち、出版でも人気マンガ「鋼の錬金術師」などを生んだ「月刊少年ガンガン」を発行する。キャラクターなどの「IP」を様々な形態でファンに届ける戦略はエンタメ業界の共通方針。「時代の先を見て獲得するもの、磨くものがあれば、姿を見直すこともある」とも話した。
「ファミコン世代」の社長続々、業界再編と対峙

今なお陰に陽に影響力を持つ創業者との距離感はそれぞれだが、新世代がレジェンドを超える器を示さなければ企業は成長できない。桐生氏をはじめバンダイナムコエンターテインメントの宇田川南欧氏など業界外出身の人材もいて、しがらみのない新鮮な価値観に期待がかかる。
スクウェア・エニックス、バンダイナムコ、コーエーテクモ――。ゲーム業界は2000年代に業界再編が一気に進んだ。国際競争を勝ち抜く企業体力を獲得する側面もあった。ただ、足元の肥大化したゲーム業界では開発費の100億円超えも珍しくない一方、「製品価格への転嫁は難しい」(桐生氏)。可処分時間の争奪も激しく、最前線に立ち続けるのは容易ではない。
国境と業界の垣根を越えた枠組み作りは進む。米マイクロソフトは690億㌦を投じ米アクティビジョン・ブリザードの買収を急ぐ。テンセントやネットイースなど中国勢の動きも活発だ。ゲーム業界にはテック巨人がこぞって手を伸ばし桁違いのヒト・モノ・カネを投入している。巨人との真っ向勝負か、それともリスク回避の安全策か、あるいは思い切った傘下入りか。日本勢は選択を迫られている。
桐生氏が好きなゲームに挙げたのは「トバルNo.1」。RPGに強いスクウェアが格闘ゲーム、それも3Dに挑んだ意欲作だ。会見では控えめな優等生を貫いたが、前例を覆す大胆な挑戦があるかもしれない。
(新田祐司)
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