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衰退する日本の中間層(1) 分厚い中間層が重要な理由 駒沢大学准教授 田中聡一郎

先進諸国で中間層の衰退が話題になっています。人工知能(AI)やロボット技術の発展で、中間層が担ってきた定型的な仕事が失われ、労働市場の二極化が進むのではないかということも議論されています。

また従来、リベラル政党を支持していた労働者階級も、グローバル化や移民労働者の増加で安定した雇用が失われ、没落したと感じています。その不満が米トランプ政権の誕生や西欧での極右政党の台頭など、ポピュリズムや政治的分断の背景にあるようです。

日本もかつては「総中流社会」といわれ、平等な社会と考えられてきました。しかし2000年代以降、格差社会が到来したといわれます。そして現在、「新しい資本主義」を掲げる岸田文雄政権は、賃上げや人への投資への支援を通じて、成長と分配の好循環を実現し、分厚い中間層の復活を目指しています。

なぜ、中間層の存在が重要なのでしょうか。それは、経済成長と民主主義の基礎となる存在だからです。経済的な観点からは、中間層の家計は教育投資に力を入れる傾向があり、それは社会全体としても人的資本の蓄積につながります。その結果、イノベーションや経済成長を生み出す原動力が生まれるのです。

また、中間層の衰退で所得分布が二極化すると、高所得層から低所得層への更なる所得移転が必要となるでしょう。その結果、社会保障制度の維持が難しくなったり、財源問題を巡る政治的対立が深刻化したりすることも考えられます。

中間層の衰退は、イノベーションの停滞や政治的分断を引き起こしかねません。経済発展と社会の安定には分厚い中間層が必要といえます。

本連載では、日本の中間層の現状と政策課題について検討します。格差や貧困に関する研究は多いのですが、中間層に焦点をあてた論考は少なかったように思います。データに基づきながら、日本の家計が抱える生活不安や中間層を支えるための政策を考えます。

 

 

たなか・そういちろう 慶応大院博士課程単位取得退学。専門は社会保障論、所得分配