全国で170以上のゴルフ場を展開するアコーディア・ゴルフの田代祐子会長(68)。大手会計事務所のKPMGでキャリアをスタートさせ、ゼネラル・エレクトリック(GE)などでリーダーとしての経験を積んできた。米国での体験も踏まえ、リーダーには「成長のために組織を変革する覚悟が必要」という。
――リーダーの条件とは何でしょうか。
「その時代に、将来成長していくために必要な変革をもたらせることでしょう。時代によっては全く異なるリーダーが必要かもしれません。ある時期に成功した会社が、成功体験に引きずられて時代に乗り遅れ、経営が悪化したケースはいくつもあります。社会や組織が変わればふさわしいリーダーも変わります」
「最近、海外では政治家など女性リーダーが活躍し、評価も高い。彼女たちは幸福度が重要なバロメーターになった今の時代に合う仕組みを作っています。企業でもITベンチャーなどで若い経営者が台頭しています。いま何が起こっているかを把握し、現実に即して将来を見据えた変革をできる人が求められます」
――印象的なリーダーはいますか。
「GE時代、クロトンビルでのエグゼクティブ研修でジャック・ウェルチ社長と話す機会がありました。研ぎ澄まされた刀のようなオーラをもった人でした。GEではスピーディーな対応、シンプルなコミュニケーション、変革の重要性などの経営スキルを学びました。世界中で事業を展開しているため、目標は数字で設定します。数字は言語や文化が異なる国でも明確に理解できますし、言い訳がききません」
「例えば2000年に、GEは男性中心で多様性に欠けるとメディアに指摘されます。成長のためには見直しが必要と考え、すぐに女性管理職比率の目標を示した上で改善を指示しました。私も日本で『GE Women's Network』を立ち上げて目標達成に取り組みました」
「絶えず『自分が今やっている事業を壊してつくり直すくらいの覚悟を持て』とも言われました。日本では変革の難しさを歴史や文化、慣習のせいにしますが、それを変えるのがリーダーの役割。変化なしに成長はありません。やりきるだけの意志があるのかが問われます」
「現状を変えるには、大きなエネルギーと痛みを伴います。多くの人にとっては大変だからやりたくない。でも社会も技術もめまぐるしく変わる中、このままでいいのか。20年30年先を見据え、必要なことを実行するのがリーダーです。もちろん組織内での丁寧なコミュニケーションは重要ですが、合意形成を優先していたら、いつまでも目標にはたどり着きません」
――これまでで最もつらかった仕事は何ですか。
「社員のリストラですね。知人に誘われ、05年に米系の保険関連会社に最高業務責任者兼最高財務責任者(CFO)として入りました。日本の金融緩和をにらんでM&Aをすすめ、事業を拡大していく予定でした。ただ大手保険会社の不払い問題などで流れが逆になり、米本社にグループ3社の清算と社員約300人のリストラを命じられました。約200社との契約も解除しなければならず、取引先の方にも社員にも本当に大変な思いをさせてしまいました」
「つらい仕事でしたが、色々な意味で良い経験になりました。誰だって人には嫌われたくない。でも会社を持続させ、発展させるためにベストな選択をすることはリーダーの責任。ぶれずに決断し、行動することが求められます」
――日本では大胆なリストラは敬遠されます。
「何かを得るために何かを捨てる。その決断ができるのはリーダーの条件の一つでしょう。日本の企業を見ていると、これができない経営者が多い。なぜかといえば今が心地よいから。将来のために痛みを取るか、痛みを感じず心地よいままずるずると沈んでいくかのどちらかです。これだけのスピードで世の中が変わっているのだから、新しい価値観やテクノロジーをどんどん入れていかないと追いつきません」
「私は米国時代から、どの仕事でも外部から突然経営に参画する役割でした。組織にとって"異物"です。でもこれが成功要因だと思っています。1つの組織でキャリアを築くと、その組織がそのままの形で永遠に存続すると思ってしまう。心地よい場所で危機感を持つことは難しいのです。若い人や女性、外国人や異業種からの転職者など"異物"を取り込み、生かすことができれば、組織の中で自然と変革が起き、新しい価値観が定着し、成長につながります」
――2011年の東日本大震災をきっかけに、東北に居を移してボランティア活動に取り組んでいますね。
「大きなリストラを断行して自分も職場を去り、フリーのコンサルタントになりました。東北は以前から度々訪れていて大好きな場所です。震災があってまず思ったのは『自分になにができるか』。知人などのつてを頼りに情報を集めると、あるNPOから『今後は助成金申請などの支援が必要になってくる』と言われました。これなら私の専門分野です。東京の自宅を売って5月には宮城県気仙沼大島の養殖業や民宿、商店など小規模事業者の方々の事業再開支援を始めました」
「この時に感じたのは、日本では大規模災害時にスピード感を持って判断できる仕組みがないということ。平時の法律を自治体や省庁ごとに適用するので、復興の全体方針がなかなか決まらない。危機の時こそ強いリーダーシップが必要だと思い知りました」
「もし今が平穏な状態であるなら、自分の人生を棚卸しする機会をもったほうがいい。今置かれている周囲の状況やスキルを客観的に評価する。そしてやりたいことを実現するために必要なものは何かを確認する。周りや自分の状況は刻々と変化するので、ぜひ定期的に棚卸しをして目標も見直しましょう。会社も同じで強みや弱みがどこにあるのか、今どういう状況にあるのかを把握できれば、やるべきことが見えてきます」
(編集委員 中村奈都子)
たしろ・ゆうこ 1954年鹿児島県生まれ。19歳で米国人と結婚し渡米。3人の娘を育てながら大学で会計学を学ぶ。卒業後KPMGに入所、95年からパートナー。帰国後GE購買戦略担当を経て2003年フェニックス・リゾート最高財務責任者(CFO)、05年エーオンホールディングスジャパン取締役最高業務責任者兼CFO。11年の東日本大震災を機にNPO法人を設立し被災地支援に携わる。16年からアコーディア・ゴルフで社長や会長を歴任。ヤマハ発動機社外取締役なども務める。
お薦めの本
「わが経営」(ジャック・ウェルチ著)
会社を変えるとはどういうことか。強いリーダーシップを発揮しながら、何より人を育てることを大切にし、社員研修にも必ず顔を出してくれました。経営はシンプルであるべきと学んだ一冊。
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