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世界経済に望ましい「弱いドル」 米ピムコ グローバルストラテジスト ジーン・フリーダ氏

投資家は通常、米連邦準備理事会(FRB)を中心にしたレンズを通して為替相場を見ている。昨年はFRBの積極的な利上げがドルに有利に働いたが、ドルの25%もの上昇は、主にインフレや地政学的ショックに起因するものだった。このため、インフレと、ロシアによるウクライナ侵攻による軍事衝突が際限なく拡大する懸念とが和らぐにつれ、ドルは下落に転じ、新興国経済は一息つき、他の中央銀行に対する金融引き締め圧力も弱まった。

2022年の大半を通して、経済成長率の低下と同時にインフレ率上昇につながるショックが重なるという状況の中、投資家はあわてて逃げ出した。金融政策は通常よりはるかに不安定で、先進国間の相関が高いため、債券、外国為替、株式市場のボラティリティー(変動率)が上昇し、ドルが安全資産として勝利した。

FRBが利上げのタイミングと規模で主導的な役割を果たす一方、アジアと欧州では成長が阻害された。米国はエネルギーの独立を達成し、これらのショックから地理的に離れていたため、他の国ほど影響を受けなかった。

欧州は主要なエネルギー源へのアクセスを失うという存亡の機に直面した。複数の景況感調査で、欧州資産のリスクプレミアム上昇を反映して、信頼感指標が経済指標より大幅に低下した。ロシアからのエネルギー供給の完全な遮断、核兵器の使用というリスクを多くの人が懸念したからだ。

主要国の政策もドル高を後押しした。中国は22年12月まで「ゼロコロナ」政策を続け、自国とアジア地域の両方にそれぞれマイナスの需要ショックを引き起こした。英国も9月に発表した経済対策の失敗で、一時的にユーロを押し下げる結果となった。

今後ドルはどうなるのか。過去30年以上の経験では、インフレが大きな不確実性の源泉でない場合、米国が景気後退に入り、かつFRBが金融システムのリスク資産にも不況が浸透してきたと見なすまで、ドルがピークに達しない傾向がある。

これとは対照的に、1970年代と80年代前半にFRBが金利を引き上げた際には、ドルが早めにピークをつけた。当時は高インフレが成長の主要なリスクであり、政策と市場の不確実性の主な源泉だった。インフレ率が低下し始めると、政策と成長の不確実性は緩和された。市場はやがて低く安定したインフレ率へのコミットメントを守りながら、景気後退リスクに金融緩和で対応するFRBへの信頼を取り戻した。

インフレが後退すれば、成長予想は改善する傾向があり、不確実性は低下し、ドルも下落するはずだ。上昇の過程で急速な利上げペースの恩恵を受けてきたドルは影響を受けやすい。FRBの行動が他国の金利の動きのペースを支配する傾向があるからだ。FRBが金融引き締めを小休止する、あるいは終了に近づけるとの予測の中で、他の中央銀行も引き締めペースを落とし、いずれは小休止するだろう。そうなれば投資家は安全資産であるドルからリスク資産に資金を移動する公算が大きい。

中国の成長率の下方修正と人民元相場の下落は、明らかに幅広い外国為替市場の足を引っ張った。「ゼロコロナ」政策の終了は、少なくとも出口戦略が成功する限り、ドルへの下押し圧力の重要な根拠になる可能性がある。

予想外のショックが発生するリスクがない限り、インフレと金融政策の不安定さを巡る不確実性が低下するにつれて、ドルは下落を続けるはずだ。米国以外の世界の国々にとって、ドル安は最も安上がりな景気刺激策といえる。ドル安は世界の経済成長にとっていいニュースだ。

((C)Project Syndicate)