今週は国公立大学の合格発表ウイーク。もうすぐ新入生の皆さん、おめでとう。学業にサークル活動に趣味に一人暮らし……期待に胸が膨らむ学生生活の始まりだが、何事も「先立つもの」がなくては始まらない。数百万円に及ぶ額の学費・生活費の算段が必要だ。頼れる存在なのが、今や学生の2人に1人が利用するという奨学金。利用者は親の世代の3倍の規模に膨れ上がっている。何となく優しい語感の「奨学金」や「スカラシップ」だが、要するに借金であることに相違ない。どんな制度なのかしっかり理解した上で活用しよう。折しも「永遠のゼロ」とも思われた超低金利時代が終わりに向かい、金利上昇への目配りが欠かせない時代に入る。例えば今春奨学金を借りるということは4年後、2027年秋の金利環境にも思いを致す必要があるということに他ならない。
奨学金=子どもの借金、教育ローン=親の借金
海外の例とは異なり、現状日本では返済の必要のない「給付型」の奨学金は少ない。多くは「貸与型」であり将来返す必要のある借金だ。誰の借金か? のんきに親が何とかしてくれた、と思う学生もいるようだが、学生自身が債務者になる行為。卒業後に稼ぎ始める、最初は決して多くはない収入から返済を続ける義務が生じる。
一方、親が債務者になって金融機関から借り入れる「教育ローン」もある。代表例が日本政策金融公庫が扱う「教育一般貸付(国の教育ローン)」。民間に比べ低い水準の固定金利(足元では年1.95%)で上限最大450万円というまとまった額のお金を借りられる。世帯年収が一定額以下という条件はあるが、幅広い学校や用途、タイミングに対応しており使い勝手がいい。
有利子の貸与型が主流
日本で奨学金といった場合、最も多くの利用者がいるのが日本学生支援機構(JASSO)の第2種奨学金だ。17年度から始まった返済不要の給付型に対して返済義務があるのが貸与型で、貸与型はさらに無利子の第1種と有利子の第2種に分かれる。利用者は第1種の約49万人に対して第2種が約71万人とおよそ1.5倍多い(20年度)。
JASSOの第2種にも親の世帯年収や子どもの学ぶ意欲など一定の条件はあるがハードルは低い。多くの人が望めば月に最大12万円ものお金を借りられる制度。大学4年間では月12万円×12カ月×4年=576万円の多額になる。これに低いとはいえ金利が付く。最長の20年で返済するとして、今年3月の卒業者に適用される0.905%(固定金利を選択した場合)で計算すると元利合計は約632万円に増える。毎月毎月2万6000円強の額がお財布から、いの一番に消えていくわけだ。
借金の「複利パワー」に注意
今年の新入生もこのリアルさを直視しておく必要がある。そして彼ら、彼女らが思いを致すべきなのは、足元の金利ではなく4年後の金利だ。適用金利は貸与終了時(多くは大学4年の3月)のものとなり、JASSOがその時の市場金利も参考にしながら決めて発表する。実際、最近の金利上昇の影響を受け、利率は1年前と比べ0.5ポイント強上昇している。通常のローン金利に比べれば水準は低く抑えられているとはいえ、ゼロ金利下ですっかり忘れ去られた、金利が金利を生む「複利効果」は資産運用だけでなく借金の場合にもパワーを発揮することを肝に銘じよう。
上限3%の天井はあるが……
もっとも、奨学金の利率には3%までという上限がある。上限の3%での返済もイメージしておこう。同じ条件の元利合計は775万円に膨れて、月3万2000円強の返済が必要になる。3%という上限は1980年代に第2種奨学金ができた時から定められており、市中金利が上がっても連動して軽々に引き上げられるとは考えづらい。独立行政法人日本学生支援機構法施行令等の改正も必要となる。とはいえ、国の財政融資資金や財投機関債が原資になっている以上、金利上昇に伴う国全体の資金調達コスト増と全く無縁ではいられない局面が今後はあるかもしれない。
返済に困ったら……使える制度
返済方法は2パターン。貸与終了時に利率を固定する方法と約5年ごとに市場金利に応じて見直す方法だ。足元の金利は利率見直し方式の方がかなり低いが、安心を買うのであれば金利を固定する方法があることも知っておこう。どちらにするかは借入時にいったん決めるが、貸与期間が終了する年度の一定時期までは変更可能だ。
万一、返済に困ったらどうするか? 何事もそうだが「知らんぷり」が最もとってはいけない方法。返済延滞が3カ月以上続くと、通常の借金同様に個人情報が信用情報機関に登録され、その後は債権回収会社の取り立て対象となる。そうなると将来、クレジットカードの新規発行や住宅ローンの利用が難しくなることもある。
きちんと事情を説明すれば返済を猶予してくれる制度が特に奨学金の場合は整っている。「返還期限猶予制度」を申請すれば通算10年間返済を停止できる。返済期間を延ばす代わり、毎月の返済額を半分や3分の1に減額する「減額返還制度」もある。
20代半ばから40代にかけて奨学金返済の重圧は続く。非婚化・少子化の原因にもなっているとの問題意識から最近は見直し機運も高まっている。現在の制度を知り、制度変更のニュースにも敏感になって自分の将来に備えよう。

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