「分割払いができてほっとした」
メルカリで40万円弱の中古車を買った加藤さん(仮名)には苦い記憶があった。永住権を持たず派遣で働く外国人の夫と5人の子どもと暮らす。かつて銀行に住宅ローンを申請したが「審査をしても通りません」と門前払い。クレジットカードも持つことができなかった。だがメルカリに分割払いの利用を申請するとあっさり通った。
加藤さんは7年ほど前からメルカリで子ども服や玩具を日常的に売買してきた。メルカリはその取引履歴から「支払い能力あり」と判断した。
メルカリの分割払いはスマートフォン決済を19年に始めた子会社メルペイが提供している。実質年利15%の手数料で利用可能金額を個別に審査する。一般的に金融機関は年収や職歴などを基に与信するが、メルペイはフリマ利用者の取引実績なども使い人工知能(AI)で返済能力を分析する。メルペイの山本真人最高経営責任者(CEO)は「既存の金融機関では与信できない利用者を取り込めている」と話す。
メルカリは金融事業を矢継ぎ早に広げている。スマホ決済や分割払い、少額融資、クレジットカードを手掛け、今春にもビットコインの販売所をアプリ内に開設する。
金融サービスの利用者は2022年末時点で1458万人。分割払いや融資などによる債権残高は22年12月末で923億円で1年で56%伸びた。現状はフリマの補完事業との側面が強いが「新たな収益源に育てたい」(山本氏)という。
金融以外の種まきも急ぐ。21年には個人事業主など小規模な生産者を想定した「自家製品」の取引に進出した。初期費用ゼロでネット店舗をつくれる「メルカリShops(ショップス)」だ。
手縫いの人形や家庭菜園で取れたズッキーニなど多様な自家製品が並ぶ。22年4月時点の出店数は20万店を超えた。メルカリは販売価格の10%を手数料として得る。
仮想空間メタバースの普及を見据え、デジタルコンテンツなど無形資産の取引への準備も進めている。デジタルアートやゲームアイテムなどの二次流通を想定しているとみられる。
複製防止のため唯一無二のデータであることを証明する非代替性トークン(NFT)の開発に取り組んでいる。そのためにブロックチェーン(分散型台帳)技術の開発会社を21年に買収した。
だが、いずれの分野にも先行者がいる。個人向けのネット販売サイト構築ではBASE、NFTやブロックチェーンではGMOインターネットグループなどだ。電子商取引(EC)を軸にスマホ決済やカードなど周辺サービスのニーズも取り込む戦略では、1億超の利用者IDを持つ楽天グループが先を行く。
「成長実感を得られなくなって会社を去った人材も少なくない」(メルカリ関係者)。新規事業には、そんな社内の閉塞感を打破する効果もある。メルカリShopsの開始後、「新しいことをやるなら、と(退職者が)結構戻ってきた」と執行役員最高人事責任者の木下達夫氏は話す。他の事業部の役職に応募できる仕組みも22年末に制度化した。会社を飛び出さなくても新しい挑戦ができる環境を整えた。

創業から10年。「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」というミッションを掲げて世界を目指してきた。だが、株式市場からは「今後何がしたいのかよく分からない」(国内証券アナリスト)との声が漏れる。米国事業は苦戦が続き、金融事業も22年10〜12月期は26億円の営業赤字(調整後)で先行投資が続く。
2月、メルカリはミッションを改定し「あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性を広げる」とした。「フリマの次」を意識し「スキルの売買なども視野に入れている」(メルカリの山田進太郎CEO)。新たなミッション策定には社員も巻き込み100回近く議論を重ねた。全社を挙げて次の10年への模索が始まっている。
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