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20代前半、大都市に集中 東京への流入超10年で5割増 生活費上昇招きやすく 結婚・出産意欲に影響も

新型コロナウイルス禍でやや減速したものの、東京の流入超は拡大基調にある。人の過密は生活費の上昇につながりやすく、大都市の若者の経済的な余力を奪えば、結婚や出産への意欲をそぐ可能性がある。

 

総務省の住民基本台帳人口移動報告で、22年の東京への転入超過を年代別にみると、20~24歳の5万7153人が飛び抜けて多い。次いで25~29歳(1万9235人)、15~19歳(1万3795人)と続く。

20~24歳の転入超過は前年に比べて15%増えた。年代別の集計を公表し始めた10年以降、19年(5万7197人)に次ぐ高水準で、コロナ以前の水準に戻った。

都市政策に詳しい日本大学の中川雅之教授は「東京には若者の能力や好みにあった就業機会が多くある」と指摘。結婚や恋愛の面で「自分に合うパートナーとのマッチング機会も多い」と語る。

仕事や出会いを求めて若者が集まる動きは地方の大都市にもみられる。22年は21大都市のうち、東京圏(東京、神奈川、千葉、埼玉の4都県)を除くと札幌市(8913人)、仙台市(2938人)、大阪市(9103人)、福岡市(6031人)などが転入超過だった。大阪は20~24歳に限ると1万1911人の転入超過だった。

 

 

東京都の転入超過はコロナ禍の21年に全体で前年比83%減の5433人と大きく落ち込んだ。20~24歳については2%減の4万9515人と微減にとどまった。コロナ流行を受け東京を離れて郊外や地方に転出したのは30代以上が中心だった。

東京圏には国公私立合わせて200超の大学が集まる。リクルート就職みらい研究所によると、東京圏の大学の22年卒業生の89%が東京圏にある企業に就職すると回答。ここ数年は9割前後で推移する。

上場企業の半数、外資企業の4分の3が都内に本社を置く。コロナ禍でテレワークが急拡大した際も多くの企業は地方に移転しなかった。コロナ前から変わらぬ構造が若者を引き寄せている。

他の年代は東京から流出している。22年も14歳以下と30歳以上はすべて転出超過だった。全年代の流出を20代と10代後半が吸収し、大きな人口流入を生んだ。年を重ねると女性より男性が転出している。30代以上では35~39歳の男性は3980人と転出超過が最多で、40~44歳(3087人)が続いた。

中川氏は「東京で就職して結婚すると、必ずしも東京にいる必要がなくなり、都心に通える郊外に一部が転出する傾向がある」と分析する。東京と地方の二拠点生活を選ぶ人もいるが、富裕層などに限られる。

東京に流入した若者は女性の方が多い。地方に比べて小売りや飲食といったサービス産業が多く、就職先を求めて移動する。都内のエステ店に勤める女性(28)は20歳で静岡県から初めて移り住んだ。静岡のエステ店で働き始めたが、最新設備を扱いたいと半年で辞めた。東京生活は「飽きることがない」と話す。

日本は地方に行くほど性別による分業意識が強いことも影響する。固定観念を嫌い、しがらみのない都市部に多くの女性が流れている。

都市部への人口集中は住居費などの上昇を招きやすい。不動産経済研究所によると、22年の東京圏の新築マンションの平均価格は6288万円と2年連続で過去最高を更新した。

国土交通省の推計で、東京の全世帯平均の可処分所得は全国3位だった。中間層の食費や家賃といった基礎的支出は東京が最も多く、可処分所得との差額は全都道府県で42位に下がる。「東京の中間層は他地域に比べて経済的に豊かであるとは言えない」とした。

国立社会保障・人口問題研究所の21年の出生動向基本調査では、夫婦が理想の数の子どもを持たない理由として「子育てや教育に金がかかりすぎる」が52.6%で最多だった。少子化対策には都市部の若者に目配りした経済支援が欠かせない。