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バフェット氏、株主への手紙は米国への恋文 愛憎交じる

今年の手紙の内容は一言でいうと「米国へのラブレター」だ。自身の人生を振り返り、米国経済の成長と米国株への長期投資によって成功に導かれたと礼賛した。一方、自社株買いへの課税など、企業の資本政策を制限する動きを激しく批判した。これまで政治的主張をあまり見せなかったバフェット氏の手紙だが、今年は自国愛からか新境地に踏み出した。

「80年というアメリカの歴史の3分の1以上の年月を投資に費やしてきた自分が米企業への長期投資に疑問を抱くことはない」。バフェット氏は幼少期に始めた自身の投資に加え、バークシャー買収後の58年の投資歴を通じ、長期投資でどれだけの富を蓄積できたかを説明した。

銘柄選びこそバフェット氏の真骨頂だ。「5年ごとに一握りの投資銘柄の上昇という幸運に出合った」おかげで、株式相場全体を大幅に上回る投資リターンを確保できたと説明。中でもコカ・コーラとアメリカン・エキスプレス(アメックス)という米国を代表する2銘柄を取り上げ、バークシャーの最大の投資成功例と解説した。

コカ・コーラの場合、1994年8月までの7年間に4億株を購入。そのコストは13億ドル(約1800億円)に上ったが、2022年末時点で保有するコカ・コーラの価値は250億ドルと19倍に拡大した。アメックスも同様に1995年までに購入した同株のコストが13億ドル、昨年末の保有株の価値は220億ドルに上った。

こうした投資銘柄の上昇が奏功し、22年通年のバークシャー株の騰落率は4%と同時期のS&P500種株価指数のマイナス18.1%に比べ好調だった。1965年から2022年までの年率上昇率は19.8%とS&Pの9.9%の2倍強に上った。特筆すべきは相場全体が急騰したときにはバークシャー株は小幅の上昇にとどまることが多かった一方、相場全体が低迷したときには、バークシャー株の下げは小幅にとどまる年が多かったことだ。「バブル」に浮かれず、逆境に負けないバフェット流の投資哲学の正しさを証明した。

市場関係者の間では現在、インフレの長期化や景気後退の懸念も強まっているが、手紙では直接的にはこうした懸念には触れず、米経済の成長という追い風がバークシャーの成功を後押しした点を強調した。

一方、その米経済と資本市場の拡大に足かせになりかねない要因については、容赦ない批判を繰り広げた。自社株買いに関する議論についてである。

バークシャーの上場株投資の約4割を占めるアップルやアメックスでは、企業の自社株買いによってバークシャーはコストをかけずに持ち株比率を高めることができた。自社株買いを適切に実施すれば流通する株式数が減り、既存の株主に帰属する1株利益(EPS)が高まるとして、「すべての株式保有者に利益をもたらす」と強調した。

「すべての自社株買いが株主や国にとって有害だとか、特に(多くの自社株を持つ)最高経営責任者を利するものだといわれたら、あなたは経済に無知な人か口先だけの扇動家の話を聞いていることになる」。手紙ではかなり強い表現で自社株否定論者を批判した。2月上旬の一般教書演説で、自社株買い課税の適用税率を現在の1%から4倍にする考えを示したバイデン大統領を暗に非難していると市場では受け止められた。

バフェット氏と盟友のマンガー氏(2019年の株主総会で)=ロイター

今回の手紙ではバフェット氏の後継者候補とされるグレッグ・アベル氏に言及せず、昨年の年次報告書で初めて登場した「グレッグ・アベルの手紙」もなかった。むしろ99歳の盟友チャーリー・マンガー副会長の金言に1ページを割いたことが注目された。マンガー氏は「世界は愚かなギャンブラーにあふれているが、辛抱強い投資家には勝てない」「ウォーレン君、もっと思慮深く。君は賢く、僕はいつも正しい」などと、持ち前のユーモアで投資哲学を語った。

5月上旬にはネブラスカ州オマハで、バークシャーの株主総会が開催される。マンガー氏とバフェット氏のユーモアあふれる投資哲学の応酬は、世界中から集まる株主の前でも披露されることになりそうだ。

(ニューヨーク=伴百江)

[日経ヴェリタス2023年3月5日号掲載]