植田和男次期日銀総裁候補がいずれ政策修正に着手するとの観測が浮上。長短金利操作(イールドカーブ・コントロール=YCC)の撤廃などで長期金利が上昇(債券価格が下落)すれば、国内勢の買いが活発になりそうだ。
日銀の資金循環統計によると、2022年9月末時点で国庫短期証券を除く国債の保有割合は日銀が約50%。銀行などの預金取扱機関は11%で保険・年金基金は22%だ。
異次元緩和が始まる前の12年12月は預金取扱機関が39%と最大だった。異次元緩和が始まると、超低金利で国債を買いづらい状況が続いていた。日銀が政策修正に踏み切って国債購入量が減る時、再び銀行が日銀に代わる買い手になるか注目されている。大手金融機関の運用担当役員に今後の見通しを聞いた。
「(長期金利の指標となる)10年物国債の利回りが1%、20年債で2%になれば、日本の投資家にとって『買い』というのが基本的な考え方だ」。三井住友銀行で市場営業部門統括責任役員を務める小池正道専務執行役員は話す。低位にとどまっていた日本の金利だが、長期金利で1%付近まで上昇すれば、投資妙味が出てくるという。
日銀は22年12月にYCCを修正し、長期金利の許容変動幅の上限を0.25%から0.5%に拡大した。1%まで上昇した場合「運用先として悪くなく十分に投資できる。1%を待たずして少し運用が出てくるのでないか」と意欲を見せる。
みずほフィナンシャルグループでグローバルマーケッツカンパニー共同カンパニー長を務める輿水賢哉執行役は、債券市場の機能度低下が続いていることから「YCCが撤廃される可能性は相応にある」とみる。そのうえで「運用難の中でYCCが撤廃されれば、日本の投資家は買いに行く。撤廃後も市場の混乱や野放図な金利上昇はないだろう」と話す。
農林中央金庫の国債や地方債などの投資残高は約9兆円と、10年間で6兆円程度減少した。ただ投資統括責任者を務める湯田博常務執行役員は「最近の金利上昇をみて円債に関心を持ち始めた。YCC撤廃まで(買い入れを)待つかどうか分からないが、今後の金融政策決定会合をみながら判断する」と話す。
国内の大手機関投資家が国債に注目し始めているのは、一時は稼ぎ頭だった外国債券の運用が苦しくなってきているのも一因だ。米連邦準備理事会(FRB)はインフレ継続を食い止めるため、1年間足らずで4.5%利上げした。保有債券で含み損が発生しているほか、新規で買おうとしても米金利上昇で調達や為替ヘッジのコストが上昇しており、米国債への投資では「逆ざや」が起きやすい。
外債で利益を出すにはリスクを見極めながら投資を工夫する必要がある。三井住友銀の小池氏は外国債券について「キャリー(保有)収益が狙えない」と話し、機動的な取引で売買益を狙う運用に専念してきた。
農林中金は22年4~9月の半年間で米国債を中心に有価証券を約12兆円売却した。湯田氏は「ある程度キャリーが見込めるものを選別する必要がある」と話し、新規投資に慎重な姿勢を示した。
みずほの輿水氏は守りの運用に徹してきたとしたうえで「大きなお金を動かすのは霧が晴れてからでもいいだろう」と語る。国債を買い入れたとしても価格が断続的に下がればリスクになる。継続的な金利上昇への備えも必要だ。
(北川開、和田大蔵、五艘志織)
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