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農林中金「米国債中心に12兆円売却、警戒緩めず」 農林中金 湯田博常務執行役員に聞く

長短金利操作(イールドカーブ・コントロール=YCC)の撤廃などで長期金利が上昇(債券価格が下落)すれば、国内勢の買いが活発になりそうだ。農林中央金庫常務執行役員投資統括責任者の湯田博氏に運用方針を聞いた。

――農林中央金庫の資金調達構造を教えてください。誰のお金を運用しているのでしょうか。

「全国の農協などから預かった資金を市場運用と融資に充て、収益を稼いで還元するのが農林中金の役割だ。預かっている資金の規模は2022年9月末時点で98兆円。毎期粗利益ベースで5000億円稼ぐことが目標だ」

「収益の大部分は市場運用で稼ぐ。運用資産の半分強は債券だが、株式やクレジット商品、プライベートエクイティ(PE=未公開株)、不動産などに分散し、安定して収益を出せるようにしている。あくまでも農林水産業の所得向上といったパーパス(存在意義)に基づいて投資活動をしている」

――2022年は金利が急上昇するなど市場が大きく変動しました。運用資産にはどのような影響が出ましたか。

「米国債を中心に含み損が発生した。実は21年から金利上昇に備えて債券を入れ替えてきたが、22年に金利が急上昇したため売却を急いだ。4〜9月の半年間で米国債を中心に有価証券を約12兆円売った。10月以降も追加で売却している」

――有価証券の含み損は22年9月末時点で約1兆7000億円。リーマン・ショック直後の09年3月末(約2兆円)以来の水準に悪化しました。財務に問題はないのでしょうか。

「当時とは含み損の中身が大きく異なる。リーマン危機のときはクレジット商品や株式が中心だった。今回は国債が中心で、時間がたてば解消する性質のものだ。中核的自己資本(CET1)比率は9月末までの半年間で5ポイント低下したが、それでも約13%と他の大手銀行よりも高い水準だ」

――運用資産は22年12月末時点で約53兆円と、同年3月末から約7兆円減りました。新規投資はしないのでしょうか。

「ある程度キャリー(保有)収益が見込めるものを選別する必要があり、新規投資は手控えている。市場の動きが速いため、当面は警戒姿勢を緩めてはいけないと思う」

――国内金利が上昇し、国債の投資妙味が回復しています。

「最近の金利上昇をみて円債に関心を持ち始めた。YCC撤廃まで待つか分からないが、今後の金融政策決定会合をみながら判断する」

――低格付け企業向け融資を束ねたローン担保証券(CLO)への投資は増やしますか。

「22年12月末の投資残高は約6兆3000億円。同年3月末から2割強増えたが、為替の影響が大きく、実際にはここ1年程度ほぼ横ばいだ。米大手銀などと比べて突出して高い水準ではなくなっている。今後も条件をみながら適切に投資する」

――PEなどオルタナティブ(代替)分野への投資方針を教えてください。

「一定程度は新規投資を続ける。数年おきのファンド設立のタイミングを逃すと、その後アクセスできなくなる恐れがある。株式市場が不安定だとPEファンドにとって企業買収の機会が増えるため、ファンド投資の時期としては悪くないと思う」

(聞き手は和田大蔵)