4月の統一地方選を前に子育て世帯を重視する姿勢に変わりはないものの、撤廃への賛否の主張からは選挙に向けて意識する地域や世代の違いがうかがえる。
「全ての子どもの育ちを支える観点から所得制限を撤廃すべきだ」。議論のきっかけは1月の衆院本会議での茂木敏充幹事長の代表質問だった。
事前に政調幹部や首相官邸に根回しした形跡はない。岸田文雄首相が唱える「次元の異なる少子化対策」の目玉として突如浮上した。
統一選を意識
いまの児童手当は中学生までの子どもがいる世帯を対象に原則、月1万円から1万5千円を支給する。夫婦と子ども2人の場合、世帯主年収が960万円以上なら5千円に減額し、1200万円を超える世帯には給付していない。
茂木氏が提起した背景には4月に控えた統一地方選がある。立憲民主党や国民民主党は2022年参院選の公約に所得制限の撤廃や対象拡大を盛り込んだ。地方選で野党との対立軸を打ち消し、都市部を中心に若者世代の支持を取り込みたいとの意図が透ける。
これに慎重論を唱えたのが世耕弘成参院幹事長だ。
「私はどちらかというと撤廃に賛成な立場だったが……」。2月21日の記者会見でこう前置きしつつ「高級マンションに住んで高級車を乗り回す人にまで支援するのかと(いう声が)世論調査で出ている」と指摘した。
「政策を修正しながら対応していけばいい」とも語った。都市部に多い富裕層まで給付対象になることは、自民党が長年基盤としてきた地方の理解を得にくいとの意識がにじむ。
世耕氏の「高級マンション」発言にはSNS(交流サイト)上で「都内で子育てすれば1200万円あっても、そんな優雅な生活はできない」といった批判が出た。
都市部と地方では地価や物価などが異なるため、同じ収入水準でも都市部の方が地方より可処分所得が少なくなるという見方はある。

世耕氏と同じ安倍派の萩生田光一政調会長は財源の観点から撤廃に難色を示す。
撤廃に伴って必要となる財源は1500億円程度とみられる。萩生田氏は同じ財源を使うなら、少子化対策の一環として若い新婚家庭の生活環境の整備に予算を振り向けるべきだとの考えだ。
全国で20万戸の空きがある公営住宅を有効活用して新婚家庭に貸し出す案を提起している。「1500億円があるなら(公営住宅の)畳やお風呂、トイレを新しくしてあげたい」と発言した。
世代間でも賛否の違いは鮮明だ。
日本経済新聞社の2月の世論調査で「撤廃すべきでない」は全体の54%で「撤廃すべきだ」は38%だった。「撤廃すべきだ」と答えた人を年齢層別にみると18~39歳が61%、40~50歳代が37%、60歳以上は30%で年齢が低いほど撤廃を求める割合が高かった。
茂木氏は2月27日の記者会見で改めて撤廃実現に意欲を示した。「少子化という壁を必ず乗り越えて明るい未来をひらく。若者・子育て世帯をはじめとする国民に政治が伝えるメッセージだ」とも強調した。
首相は静観姿勢
首相は当面、党内の議論の行方を見守る意向だ。1月の衆院予算委員会では「政府として大きな関心を持ち、注視した上で方針を決定していきたい」と述べた。
政府は3月中に少子化対策のたたき台をつくり、具体的なメニューを6月の経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)に反映する。
自民党は政府のたたき台提示に先立って提言を策定する。党内論議の様子から重要政策を巡る主導権争いの匂いを感じ取る議員もいる。
自民党内の足並みの乱れを尻目に、主要野党は児童手当の所得制限の撤廃で足並みをそろえる。
立民と日本維新の会は2月20日、所得制限を撤廃する児童手当法改正案を衆院に共同提出した。立民の泉健太代表は「所得制限の撤廃などは6月を待たずに首相が決断すべきだ」と迫る。
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