日銀の次期総裁候補として植田和男氏が国会に提示された。同氏は物価、景気の現状と見通しに基づいて適切に政策運営するとしている。
その物価について私は、ゼロインフレからマイルドインフレに移行しつつあるとみる。基調的インフレ率を判断するには、日銀が公表する消費者物価指数の加重中央値と最頻値が有用だ。一部品目の動きに左右されない粘着性の高い指標で、過去20年は0%前後にとどまっていた。それが昨年後半から1%台へ明確にシフトアップした。
グローバルな物価環境の大きな変化、構造的人手不足にも支えられた賃金の上昇傾向も踏まえると、1%程度のインフレは定着しそうだ。
一方、持続的な2%インフレにはなお距離があるとみる。1%程度の労働生産性の上昇を踏まえると、インフレ2%と整合的な賃上げは3%となるが、その定着がみえないことなどが背景だ。今春のベアも高まるとはいえ、主要企業でも1~2%だろう。
そうした物価の見方が正しいとした場合、どのような金融政策運営が適切か。
一つはインフレ2%の定着が確かになるまで現在の緩和を全く修正しないとの考え方である。もう一つは2%を中長期の目標と位置付け、長期金利操作やマイナス金利などの異例な政策はやめつつ、しばらくは緩和的環境を維持するとの考え方だ。
いずれの考え方にもプラスとマイナスの両面ある。前者は、2%を確実にする観点からは効果的かもしれない。しかし仮に2%が実現すると、米欧ほどではないにせよ明確な利上げが必要となり、市場が先読みして長期金利操作が困難を極める事態も想定される。異次元緩和に慣れ切った日本では、金融経済の不安定化につながりかねない。2%が実現しない場合には副作用の大きい政策がさらに続く。
後者の場合、副作用に対応しながら緩和を続けるので、バランスのとれた金融経済情勢の確保に資する。しかし修正後に経済や物価が落ち込むと、早すぎる修正との繰り返された批判を日銀が再び浴び、信認が低下しかねない。
いずれを選択するかは、金融・経済・物価の判断やリスクマネジメントの考え方によって異なるが、私は後者が適切と考える。副作用への対応から異例な政策は早めにやめるが、その後は基本的にゆっくり対応するアプローチだ。
ただ、しばらく低金利が続く点では両者に大きな違いはない。日本の潜在成長率は極めて低く、インフレの定着が1%程度であれば、経済や物価に中立な名目金利は1%程度だろう。仮に政策スタンスを修正したとしても、政策金利はしばらく名目中立金利を下回ることが適当だ。短期は0%近傍、長期は短期金利の将来指針や国債買入などの活用もあって5年が0.5%以下、10年は1%以下に抑えられるイメージか。
最後に、こうした政策見通しはマイルドインフレという想定に基づくことを改めて指摘しておく。日本でも物価・賃金の環境は変化しているだけに、インフレ動学が想定外に上振れる可能性も頭の片隅に入れておきたい。
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