このぶんだと今年2023年の日本人の出生数が70万人台前半にまで落ち込むのは避けられまい。「社会機能を維持できるかどうかの瀬戸際」(岸田文雄首相)どころか、国の存立さえもが危うくなる。日本が外国人だけでなく日本人にも選ばれなくなりつつあるという見方も成り立とう。
1月4日、年頭の記者会見で首相は「異次元の少子化対策に挑戦し、若い世代からようやく政府が本気になったと思ってもらえる構造を実現する」と述べたが、いまだに本気度は伝わってこない。少子化を止め、出生数を反転増加に導くには、子供を産んで育てたいと切に望む若い世代を政権と各自治体の首長、また経済界が総力で支えねばならない。

婚姻件数の減少が顕著に
外国人を含む22年の出生数は79万9728人。前年より4万3千人あまり、率にして5.1%も減ったのは、言うまでもなく新型コロナウイルス禍が大きく寄与している。感染拡大の当初、人どうしの接触機会を減らすのが何にも増して優先され、若者らは出会いの場を奪われた。日本人の20年の婚姻件数は52万5千件あまり。前年より一気に約7万3千件減り、21年はさらに約2万4千件減った。

両親が結婚生活を始めてから第1子が生まれるまでの平均期間は2年半程度なので、22年の出生数80万人割れにはコロナによる婚姻激減の影響が色濃く出ている。このマイナスの影響は今年もつづく。日本人の出生数が70万人台前半に落ち込むと予測する根拠の一つである。
コロナ禍を出生数減少の特殊要因とすれば、構造要因として2点を指摘できる。第1は、団塊ジュニア世代の多くが50代に差しかかり、出産適齢の女性が少なくなってしまったことだ。残念ながら今となっては手の打ちようがなかろう。
非正規にも正社員にも悩み
第2は、若者の結婚・出産に対する意欲の低下がここにきて顕著になっている点だ。むろん結婚や出産は各人の選択である。その価値観に国が口を挟むべきではないのは当然だ。一方、就労や収入をめぐる厳しい状況が結婚して子供をもちたいという若者の希望をくじいている例は少なからずある。異次元の対策は、我慢を強いられているこれらの若者を徹底して支えることに比重を移す必要がある。
とくに出産後に「何とかなりそうだ」と感じられない女性が増えているのを重くみるべきだ。非正規で働く人は収入が増えにくいという問題を抱えている。正社員は新卒で一括採用されてキャリアの蓄積を期待されるが、その大切な時期が20〜30代に重なりがちだ。出産か仕事かの二者択一を迫られる状況の解消が急務である。

児童手当の所得制限をなくすかどうかなどという薄っぺらい議論は打ち止めにし、費用対効果を吟味しつつ、かぎられた国・自治体の予算をいかに有効に使うか、与野党がともに知恵を出し合うべきだ。ヒントは政府の全世代型社会保障構築会議が昨年12月に出した報告書にある。
結婚微増の機運を見逃すな
報告書は育児休業だけでなく、希望する人が子育て期に時短勤務を選べるようにするための給付金、アプリで短期・単発の仕事を請け負うギグワーカーなどに対する給付金の創設を例示した。政府は精緻な制度設計を急ぎ、早急に実現に移してほしい。また企業経営者には従業員の残業を減らし、時短勤務を根づかせる責務がある。

岸田政権は新型コロナの感染症法上の類型を5月に季節性インフルエンザと同じ扱いに緩和する。名実ともにアフターコロナの時代だ。経済活動を平時に戻し、物価上昇に負けぬよう若者らの収入を上向かせる。若い世代にとって将来の社会保障・税負担が過重にならぬよう、年金や高齢者医療、介護保険の給付費膨張に歯止めをかける。そうして捻出した財源を再び若い世代に回す。不可欠なのは、中期・長期の時間軸をにらんだ対策の立案・実行である。
僅かとはいえ、22年の婚姻件数が3年ぶりに増加に転じたのはひと筋の光明だ。アフターコロナの日本を日本人にも選ばれない国にしないために、V字回復は難しくとも出生数を反転上昇に導く機運を逃してはならない。
出生数80万人割れは2月28日、厚生労働省が23年度政府予算案の衆院通過を待っていたかのように公表した。よもやとは思うが、この衝撃的な数字が予算委員会の審議に影響するのを避けようとする圧力が働いたとすれば、統計行政の公正性に疑念が生じると付言しておきたい。
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