修繕費や更新料も加味して試算
持ち家と賃貸、50年間にかかる総費用は――。三井住友トラスト・資産のミライ研究所が試算結果をまとめた。試算は2021年度時点の首都圏を想定。住宅のフロー(流動性)支出に注目し、持ち家は固定資産税や修繕費、賃貸は2年ごとの更新料なども加えてシミュレーションした。
結果は持ち家が総額8310万円、賃貸が同8235万円。その差わずか75万円だ。

試算は制度変更が多い住宅ローン減税を勘案していないので、現状の減税規模が続けば持ち家が安くなる。逆に、600万円と見込む修繕費は持ち家の状態などによってはさらに上積みされる。
損得は少しの変化で逆転する。同研究所の丸岡知夫さんは「どちらが得かは試算の要点ではない。住宅費用には様々な『変数』があるのを知ってもらうのが主眼」と話す。
たしかに、50年という長期間でみると、それぞれの費用は多様な変数が影響して上下する。例えばローン金利。試算では年2%としたが、バブル期は同7%もあった。足元も日銀の「実質的な利上げ」により、23年初めから一部で金利が上昇している。
重要なのは支出のタイミング
金利がわずかに動くだけで、50年の総負担額は数百万円も上下する。丸岡さんは「総額は『大枠』としてとらえるべきだ。それぞれの費用の支出タイミングにこそ関心を払いたい」と話す。
タイミングとは具体的には何か。毎年の支出推移をグラフで示せば明らかだ。賃貸では支出がほぼ平らな線を描く一方、持ち家はジグザグが激しい。購入時の頭金や、住宅が老朽化したときに必要になる修繕費など一時的な支出があるためだ。コンドミニアム・アセットマネジメント(東京・千代田)代表の渕ノ上弘和さんは「戸建ては外壁補修工事などで100万円超の支出が突然必要になる年がある」と説明する。

マンションは通常、毎月一定額の修繕積立金を払っていくので一般に支出は緩やかだが、それでも「積立金が足りず、修繕費を臨時で集める例もあり、突発的な支出と無縁とは言い切れない」。持ち家はこれらの支出が必要になりそうなタイミングを知り、備えることが欠かせない。
賃貸にも注意点がある。ファイナンシャルプランナーの久谷真理子さんは「老境に入っても支出がコンスタントに続くことは頭に入れておこう」と指摘する。持ち家はローンが完済すれば、大きな修繕がない年は賃貸より総じて支出が低い。「年金生活に入って収入水準が下がったときにこの差は軽視できない」
賃貸オーナー、7割が高齢者入居に拒否感
高齢になったとき、住みたい家の賃貸契約を続けられるかも不安材料だ。国土交通省の21年度調査によれば、賃貸住宅オーナーの約7割が高齢者の入居に拒否感を抱く。入居中に死亡した場合に次の入居者探しが難しくなることなどを懸念しているようだ。
丸岡さんは「賃貸は突発的な支出が少なく、計画的に金融資産を運用できる利点を生かしたい」と助言する。長期運用で一定の金融資産が手元に残れば、老後に通常の物件を借りにくくなったとき、速やかに介護施設などへ移る選択肢を持つことができる。
一方、住宅は「資産」でもあるので、最終的な収支は賃貸とは異なる。持ち家であれば老後は売却し、その代金を介護施設の入居費などに充てられるからだ。賃貸ではこうした「不動産としての資産形成」はできない。
持ち家の資産価値、期待外れも
もっとも、資産価値は立地などに左右される。希望通りに売れるのは交通の便が良かったり、適切な修繕が施されたりした市場性がある物件だけだと考えておきたい。土地だけなら売れる可能性は増すが、近年は解体費も上昇傾向にあり、十分なお金が手元に残るとは限らない。
こうした持ち家と賃貸の費用差や支出タイミングは、居住エリアを問わず原則、全国で同様のパターンとなる。「持ち家の価格だけが高く、家賃は低いとか、その逆という状態は長続きせず、いずれ同レベルに落ち着く」(渕ノ上さん)からだ。例外として、思い切って異なるエリアに転居する際は、これまで説明したような持ち家と賃貸の差を思い出す意味がありそうだ。
丸岡さんは「リモートワークの普及などで住み替えが頻繁になり、持ち家と賃貸を行き来する暮らし方も増える」と見通す。収入水準が高い都心部での仕事を地方在住で担うことができれば家計収支は改善する。二者択一ではない柔軟な考え方も必要だ。
賃貸の6割は50平方メートルに届かず

(住宅問題エディター 堀大介)
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