大手ゼネコンの不動産開発投資の稼ぐ力が向上している。清水建設がこのほど、私募不動産投資信託(REIT)を組成したほか、鹿島は銀座などでの高級物件開発に乗り出した。長期化する資材高などで主力の建設事業の収益悪化が鮮明になる中、粗利益率で2割を超える非建設事業を拡大。安定した利益成長を目指せる体質づくりを進める。
清水建は年明けに私募REITを組成し、オフィスや物流倉庫など4件の不動産物件を組み込んだ。当初の運用額は370億円で数年以内に運用規模を1000億円程度に伸ばす予定だ。同社は2024年3月期を最終年度とする中期経営計画で、非建設事業の売上総利益(粗利益)を500億円と19年3月期の2.5倍に伸ばす目標を掲げたが、すでに前期に584億円に達した。
鹿島は18年に大手ゼネコンで初めて単独で私募REITを組成。運用規模は足元で約700億円あり早期に1000億円を目指す。
24年3月期まで3年間で不動産開発には4500億円(総投資額は8000億円)を投じる。米国の物流倉庫開発を強め、英デベロッパーから銀座の高級テナントを取得するなど高級不動産分野に参入。「ホテルオークラ東京別館」(東京・港)の跡地では複合ビル再開発に参画する。非建設の粗利益は693億円と4社で最大だ。
大成建設も24年3月期中の私募REITの組成をめざし資産運用会社を設立している。
大林組も含めた大手4社の今期平均では、不動産開発を中心とした非建設事業の粗利益率は24%超だ。5年前の19%強から上昇し、建設事業の粗利益率である完成工事総利益率の9%弱を大きく上回る。粗利益額は今期で1800億円前後と完成工事総利益の約3割だが、今後も安定した収益源になりそうだ。
不動産投資を強める背景には建設事業の稼ぐ力の低下がある。東日本大震災の復興需要や東京五輪特需など好採算の工事が終息し、価格競争が激しかった際に受注した低採算の工事も増加した。そこに鉄骨やセメントなどの資材高が直撃。4社の今期の完成工事総利益は新型コロナウイルス禍前の19年3月期比では2割以上低い。

このため連結全体の純利益も低迷する。鹿島は19年3月期比で4%減で済むが、大林組と大成建は4割前後減り、清水建はほぼ半減する。
各社は安定成長の見込める事業を模索してきた。洋上風力などの再生可能エネルギー事業やインフラ運営などのPFI(民間資金を活用した社会資本整備)事業も手掛けているが、これらはまだ収益貢献に時間を要している。一方、不動産開発事業は「建築のノウハウが活用できるほか、施工受注の相乗効果が高い」(大和証券の寺岡秀明氏)こともあり、各社が投資を積極化している。
大手各社は過去も不動産開発に力を入れたことがある。バブル期に地価上昇に乗じて自ら土地を仕入れ、建設用地として工事受注につなげる「造注営業」を繰り広げた。バブル崩壊後に不良資産となった土地や開発案件で巨額赤字を計上し財務が悪化した。今はこの苦い経験をいかし採算性を重視した投資姿勢が定着しており、安定した収益源につなげたい意向だ。
(田村修吾)
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