投資基準を厳格化し、不動産開発による損失リスクを抑制する狙いがある。米欧を中心に金利の引き上げが進んでいることに加え、日銀の金融緩和政策の修正観測もある。金融引き締めによって主力の開発事業で環境悪化の懸念があるほか、大和ハウスが調達する資金の金利も上昇する可能性が高い。資本効率向上と守りの両立を目指す。
社内の稟議(りんぎ)にかける基準について、2月から内部収益率(IRR)を従来の8.5%から10%にした。IRRが10%未満の開発案件には事実上投資しない。2000年代に物流施設などの大型開発を始める際に基準を設けてから、引き上げるのは初めて。
投資基準を厳格化した背景には、世界的な金融引き締めがある。インフレへの対応から米欧の中央銀行は相次ぎ政策金利の引き上げに動いている。金利の上昇は利払い増加による収益率の低下を招くほか、景気の減速や不動産購入意欲の低下につながる。
日本でも日銀の金融政策の変更観測がある。日銀は短期金利をマイナス0.1%、長期金利をゼロ%程度に誘導する「長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)」を続けている。低金利を背景に企業の借り入れや社債の利率も低水準となり、資金調達しやすい環境だった。
各国の金利上昇などを受け、日銀は22年12月にYCCで許容する長期金利の変動幅を0.5%程度に拡大した。日経QUICKニュース社(NQN)が今月実施したアンケートでは、4月に次期総裁が就任しておおむね3カ月程度で許容変動幅を拡大すると予想する投資家が最も多く、就任1年程度では回答者の約半数がYCCの撤廃に踏み切るとした。
大和ハウスの香曽我部武・最高財務責任者(CFO)は「(金利上昇の)メリットは一つもなく、社債の起債自体がしづらい環境になる」と指摘する。銀行借り入れの利払い負担も増えるとみる。22年末の有利子負債残高は2兆円を超え、20年3月末からほぼ倍になった。
26年度までの5年間で2.2兆円を計画している不動産投資額は変更しない。「過去の大型物件で、ほとんどが計画時点で今回変更した投資基準を超えており、今後極端に投資が少なくなることは無いと考えている」としている。
ただ、物件売却の難しさは増しそうだ。不動産投資家は賃料収入を物件価格で割ったキャップレート(投資利回り)を計算することが多い。金利上昇で期待キャップレートが上昇すると、投資家が求める物件価格が下落し想定していた売却益が得られなくなる。香曽我部CFOは「売却すら成立しない市場環境も想定しておく必要がある」と話す。
景気減速で住宅事業への影響も避けられない。22年4~12月期に連結売上高の2割弱を占める戸建て住宅事業が減速した場合に備え、物流施設の開発など他の事業の投資リスクを低減させる必要があると判断した。
大和ハウスのPBR(株価純資産倍率)は1倍を割っており、リスク回避を進めながら投資効率を上げることで自己資本利益率(ROE)を高める狙いもある。前期のROEは11.7%と不動産業界の同業と比較して高いものの低下傾向にあり、26年度までに13%以上とする目標を下回る。
企業は株主からの要求利回りや借り入れ、社債などの調達で支払う金利などを考慮して投資するかどうかを決める。こうしたコストから導き出した利回りは「ハードルレート」と呼ばれる。IRRがハードルレートを上回っている場合には利益が出ると判断できるため、投資実行の目安として活用されている。
コメントをお書きください