インデックス投資を上回る収益を上げる投資法として、多くの人が思い浮かべるのが個別株投資だろう。あまたある銘柄に薄く幅広く投資するのではなく、株価が上昇するだろうと見定めた銘柄に資金を投下する。しかも、これから株価が上昇するだろうというタイミングを見計って、だ。ところが、この銘柄選びに唯一の正解はない。実際、スゴ腕と呼ばれる個人投資家の銘柄発掘法も一様ではなく、バラエティーに富んでいる。
スゴ腕たちは独自の味付け
大手企業の管理職として多忙ながら、成長株への長期投資で資産を築いた奥山月仁さん(ハンドルネーム)。過去に、トンカツ専門店の「かつや」を展開するアークランドサービスホールディングスに投資して20倍高をゲットするなど、数々の大化け株をものにしてきた。
奥山さんの投資スタンスの底流にあるのは、米国の著名ファンドマネジャー、ピーター・リンチ氏の著書『ピーター・リンチの株で勝つ』(ダイヤモンド社)だ。リンチ氏は、プロの投資家よりも個人投資家の方が有利だと指摘し、「仕事や生活で得られる情報を活用すれば、10倍株を見つけることができる」と説いた。そのリンチ氏が解説した株式投資法を日本流にアレンジしたのが、奥山さんの成長株投資だ。
仕事で外出した際に、アークランドサービスの店舗が増えていることに気付き、投資を開始。また、ある時は家電量販店の店頭でソニーグループの製品が多くなっていることに気付き、ソニーの復活を予測してソニー株で勝負に出た。
銘柄の発掘には、『会社四季報』(東洋経済新報社)も活用する。上場企業全体でどのような業種が伸びているのか。また誌面によく登場するキーワードは何か。このような全体の状況をおぼろげながらでも把握しておく。そして生活や仕事を通して見つけた有望株の候補が、四季報の情報とつながることがある。
「そういえば、こんな銘柄が四季報にも載っていたと相互の情報がリンクすることで投資候補が浮かぶこともある」(奥山さん)。こうして見つけた銘柄をじっくり長期保有し、株価が十分に上昇するのを待つ。これが奥山さんの基本スタンスだ。
低PBR株に照準 利益率で銘柄を絞る
一方、名古屋の長期投資家さん(ハンドルネーム)は、徹底した割安株投資で資産を築いてきた。だが、最初から割安さにこだわった投資をしていたわけではない。
1995年から株式投資を始めた名古屋の長期投資家さんの初期の頃の投資スタイルは、「なんとなく値ごろな株を買う」だった。株価が以前よりも下がってきた、PER(株価収益率)が低くなってきたなど、「ふわっとした理由で銘柄を買っていた」と名古屋の長期投資家さんは当時を振り返る。
転機となったのが、村上ファンドと東京スタイルのプロキシーファイト(委任状争奪戦)。豊富な内部留保を使ってファッションビル建設を計画した東京スタイルに対し、村上ファンド側が自社株買いと大幅増配を求めた一件だ。この事案を目の当たりにした名古屋の長期投資家さんは、企業の保有資産額が銘柄選別の指標になるのではないかと考えた。
「保有する資産を自分で計算できるように決算書の読み方を勉強した。貸借対照表で分かる総資産額と株式時価総額を比較して、時価総額の方が低いものを投資対象にするようにしていった」(名古屋の長期投資家さん)
2004年頃からは、株価を1株当たり純資産で割って算出するPBR(株価純資産倍率)が低い銘柄への投資を本格化する。株価を1株当たり利益で割って求めるPERは、特別損失が生じるなど一時的要因で数値が変わるので、参考にする程度だ。ただし、低PBR銘柄なら何でもいいというわけではない。普段からニュースや新聞記事などで情報を集めて、何かしらの製品で市場トップに立つなど、優位性を持ちながら割安に放置されている株を探す。
また、しっかりと利益を確保できる事業があることを大前提にしている。目安として必ず確認するのが売上高営業利益率。「やはり売上高利益率が高い銘柄は、企業としてかなり優秀だと思う。高利益率でかつ、低PBRの銘柄が理想」(名古屋の長期投資家さん)
好業績株から有力テーマを探り出す
不動産株への集中投資で資産を築いたのが、専業投資家のDAIBOUCHOUさん(ハンドルネーム)。リーマン・ショックなどの暴落を経験し、現在は安全性を重視した分散投資に徹する。銘柄選びには幾つかの手法を併用している。その一つがテーマに着目して関連銘柄から有望株を絞り込む方法だ。
通常、テーマ株投資といえば「水素」や「メタバース」など、今後需要が拡大しそうな注目分野に関連する銘柄への投資を指すことが多い。しかしDAIBOUCHOUさんの場合は、「業績に変化が起きている分野で、何か共通の理由がないかを探す。そこで浮かんできたものがテーマだ」と語る。将来こうなるだろうという前提で銘柄を探すのではなく、既に業績の変化が起こり始めている領域で共通項を探る。いわば一般的なテーマ株投資とは逆目線でのテーマ発掘方法と言える。
発掘の具体例を見てみよう。現在、DAIBOUCHOUさんが注目しているテーマに「レガシーシステム」がある。レガシーシステムとは、過去の古い技術や仕組みで構築されているシステムのこと。時代遅れとも言えるプログラム言語を使ったアプリケーションソフトやハードウエアが、そのまま使われている状態などを指す。
上場企業の四半期決算を幅広く業績推移をチェックしているDAIBOUCHOUさんは、ある時、IT系で業績の伸長率が高くなっている企業があることに気付く。なぜ伸びているのか理由を探ると、企業がレガシーシステムの更新に追われ、その領域で需要が起きていることが分かった。そこでレガシーシステムの更新で需要の伸びが見込める銘柄は何かを分析した。その結果、NCS&AやIT資産全体を管理するシステムサポートに投資したという。
町歩きで有望銘柄を発掘
町を歩きながら消費動向を分析し、銘柄選びの参考にしているのが、専業投資家のwww9945さん(ハンドルネーム)。町歩きによる銘柄発掘を始めたのは2010年代だ。女子高生たちがプリクラで撮影した画像を、携帯電話の待ち受けにしたり画像を加工したりして遊ぶ姿を見て、プリクラのフリューに投資したのが最初。この投資が成功し、町歩きでの銘柄発掘に注力するようになる。
その第1段階とも言えるのは店舗の観察だ。人気の業態や行列ができている店。そんな店舗を展開する企業が上場していれば、投資対象になる。あるコーヒーチェーン店で当時は珍しかったオシャレなスイーツが登場した際も、「若い人たちの人気を集め、リピーターが増える」と推察。店舗を展開する上場企業に投資し、成功を収めることができた。
実際に自分の目で見る消費動向は、企業が発表する月次の販売データよりも早く察知でき、かつリアリティーを持って認識できる。このため「株を持ち続ける『握力』が強くなる」とwww9945さんは分析する。
人気店への投資だけではなく、テナントの変遷から消費のトレンドを読み投資先を検討することもある。例えばコメダホールディングス。www9945さんのホームグラウンドである東京・池袋で、店舗数が増えている喫茶店チェーンだ。店頭のコーヒー価格は、1杯500〜700円程度とチェーン店の中では高い額。しかし、それに見合った店内の雰囲気で、長居をしやすい。
「これまでの池袋は、駅近にファミレスや大型の喫茶店があり、『人混みをさばく場』があった。しかしコロナでそうした店が消えていった」とwww9945さん。その結果、コメダ珈琲店のような店舗が人を集めることに成功していると推察した。
高成長の新規公開株に投資
名古屋の投資勉強会「KabuBerry」の主宰者として多くの個人投資家とネットワークを築いている会社員投資家のyamaさん(ハンドルネーム)。投資スタイルは決算情報を緻密に分析した上での成長株投資だ。特にIPO(新規株式公開)で上場して間もない銘柄を対象にしたセカンダリー投資で、成功を収める例が多くなっている。「IPOによる需給のゆがみで、株価が一時的に必要以上に下がる場面がある。その局面を確実に捉えて投資できているからではないか」と理由を分析する。
IPO株の価格が上場直後に大きく下がるのは、売り出しで購入して初値で売ったり、数日間の短期売買で利益を確定したりする人が多いからだ。「そうした売買で株価が一時的に想定以上まで下がることがままある。その場面を逃さずに投資するのが自分のスタイル」とyamaさんは説明する。
一時的に下落した株価が、投資に見合う水準かどうか。yamaさんは、決算内容や説明資料を隅々まで詳しく読み込んで分析する。その上で、今期業績の上方修正が見込める、もしくは良好な来期業績予想が期待できるなどプラスの材料があり、株価が割安だと判断できれば投資する。ただし銘柄を選ぶ際に一つだけ注意していることがある。吸収金額が小さい銘柄は投資対象から外すことだ。
「株式公開によって企業が市場から調達する吸収金額が少ない場合、人気化しやすく初値が高騰する例が多い。そうなるとセカンダリー投資は手掛けづらくなる」(yamaさん)。このため、吸収金額は20億円程度以下の銘柄は、投資対象から除くようにしている。こうした条件を設けた上での投資になるため、実際に投資できるIPOセカンダリー株は「年間100ほどあるIPO株の中の2〜3銘柄にとどまる」という。
今まで見てきたように、スゴ腕たちはそれぞれ自分に合った投資法を確立し、独自の工夫によって磨きをかけている。2月21日に発売した日経マネー4月号では、彼らの投資手法と実践例をさらに掘り下げると同時に、彼らが今注目している有望株も紹介している。5人の視点や銘柄の探し方は、個別株投資の銘柄選びの参考になるはずだ。
(佐藤由紀子)
[日経マネー2023年4月号の記事を再構成]
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