日本ゼネコンは海外でどう勝ち残るか。海外工事を手がける大手建設業者の業界団体、海外建設協会の会長でもある大成建設の相川善郎社長に勝算を聞いた。
――海外建設市場を取り巻く環境をどう見ますか。
「この2年で過去に例のないスピードで建設資材価格が高騰し、円安・ドル高も進んだことで、海建協加盟社の海外利益を圧迫している。政変や経済危機などのカントリーリスクも顕在化している。ミャンマーでは軍部クーデター以降、ゼネコン各社が施工や開発事業から撤退している」
「新型コロナウイルスの感染拡大やロシアのウクライナ侵攻など、国際環境が激変する現状で、コストやリスクを請負業者が引き受ける形で、海外工事はハイリスク・ローリターンだ。政府が質の高いインフラ輸出を掲げる上では(政府の)手厚い支援が不可欠だ」
――中国の建設市場の先行きも不透明です。
「中国では不動産バブルが懸念されるが、国外に影響することはあまりないとみる。東南アジアは経済発展を背景に、鉄道など社会インフラの設備投資が旺盛でコロナ禍での経済停滞から回復してきた。ただ、日本企業以外からの受注は中国や韓国のゼネコンとの競争が激しくなっている」
――中韓勢の実力をどう評価していますか。
「東南アジアでは、シールドトンネル掘削など技術力では日本ゼネコンが先行する。ただ、中国ゼネコンは現地の営業力に加え、中国から労働力を連れてくるなど、建設従事者の確保に秀でている。韓国ゼネコンは価格競争力に加え、技術力でも日本ゼネコンとの差はかなり縮まっている」
――日本ゼネコンの勝ち残り策は何でしょうか。
「施工技術は中韓勢に追いつかれつつあるが、日本ゼネコンは脱炭素などの先端技術で優位に立つ。ビル運用時の二酸化炭素(CO2)排出量を実質ゼロに抑えるゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)需要が世界で高まる中、技術開発への投資を続けて、新たな市場を開拓する必要がある」
「当社は中国大手の中国建築と提携し、シンガポールで共同企業体で地下鉄工事を受注したほか、スリランカでは中国建築が下請けに入った。フランス大手のブイグとも提携しており、世界的なネットワークを構築することで受注力を強化していきたい」
新領域への投資、生き残りへ必須
日本のゼネコンは2000年代に中東・アフリカで大型損失を計上し、海外展開が後ろ向きになった経緯がある。中韓勢はこの間、海外で大型受注を獲得し技術力を高めた。日本勢は2017年にトルコの巨大つり橋プロジェクトの国際競争入札で韓国勢に競り負け、国内に衝撃が走った。
日本ゼネコンが生き残るには脱炭素関連など付加価値の高い技術提案が不可欠だ。各社が進める脱炭素コンクリートや木造高層建築向けの部材などは先進国を中心に大きな商機になり得る。新領域への技術開発投資は欠かせない。
(田村修吾)
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