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中古住宅 市場を活性化 ファシロ、クラウドで仲介効率化/ノンブローカーズ、取引価格変動率を算出

中古住宅の売買を活性化しようとスタートアップが知恵を絞っている。2021年に創業したFacilo(ファシロ、東京・港)は不動産仲介会社向けに、顧客の関心度をリアルタイムで把握し、物件提案を効率化するクラウドサービスを開発した。新築価格が高騰するなか、中古シフトが強まる可能性は高い。新興勢はきめ細かなサービスで商機を捉える。

 

ファシロは仲介会社向け新サービスを近く始める。利用する仲介会社は顧客の希望に沿う物件をクラウドでリスト化し、顧客の専用ページにアップロードしていく。価格改定時や新規物件が出た際は自動で反映する。

特徴は顧客の閲覧ログ(記録)をリアルタイムで把握できる点だ。いつ、どんな物件に関心を持ったかの分析に使える。情報を閲覧した顧客には内見などを提案する一方、アクセスがない場合は関心度が低いと判断して別の物件を勧める。

ファシロの市川紘代表はリクルートで住宅情報サイト「suumo(スーモ)」の営業を担当、米国の不動産スタートアップに勤めた経験も持つ。日本の仲介会社は顧客に物件情報を送るばかりで、継続的にフォローできていない点に課題を感じていた。「営業タイミングを効率的に捉え、売り上げの向上を後押ししたい」と意気込む。

大手仲介会社を主要顧客に想定し、2023年中に500店舗で導入してもらう目標だ。営業人材の採用などに充てるため、ベンチャーキャピタル(VC)のコーラル・キャピタルなどから2億円を調達した。

 

4年で市場1.3倍

 

 

 

国土交通省によると、不動産取引での中古物件のシェアは1~2割で推移してきた。近年は首都圏の新築マンションを中心に価格が高騰し、割安な中古へのシフトが強まりつつある。矢野経済研究所は25年の中古物件取引が5万件と21年に比べ3割増えると予測する。

活性化のためには売り手を増やす仕組みも求められる。不動産取引向けのマッチングサイトを運営するNon Brokers(ノンブローカーズ、東京・港)は個人の物件売却をサポートするサービスを始めた。

物件売却では最終的な取引価格が、不動産会社が当初提示した価格より低くなるケースがある。ノンブローカーズは過去にマッチングした約1000件のデータを基に、不動産会社約200社について、この「変動率」を算出した。

売り手が不動産会社を選ぶ際の判断材料を増やす狙いがある。ノンブローカーズの東峯一真代表は「両者の信頼関係の構築を後押しできれば、中古物件の供給増につながるだろう」と説明する。

政府も中古物件の利活用に力を入れている。少子高齢化に伴って老朽化した空き家が増え、耐震構造の不足などが課題になっているためだ。空き家対策に取り組む自治体や企業を採択し、事業に対して補助金を出す制度を21年度に創設した。

 

別荘に再利用

 

 

「空き家問題」の緩和に向けて動くのがSanu(サヌ、東京・中央)だ。空き家の中古物件を買い取ってリフォームし、別荘としてサブスクリプション(定額課金)形式で貸し出すサービスを23年から本格化する。5月までに千葉県や静岡県で6棟を稼働する。

これまで自社が建てた別荘のサブスクサービスを手掛けてきた。開設スピードを重視し、大半が平屋で広さ50平方メートル程度の新築物件だ。対してリフォーム物件は2階建てで、広さ100平方メートル近いものもある。会員がより多くの人数で過ごせるようになり、顧客層の拡大につながるとみる。

MoonBase(ムーンベース、長野県辰野町)も5月、空き家を貸すサブスクサービスを始める。オーナーから物件を借り上げて入居者に貸す「サブリース」形式をとる。長野県や新潟県で物件を探している。

不動産スタートアップに投資するVC、デジタルベースキャピタルの桜井駿代表パートナーは「住宅の修繕履歴をデータで保存して可視化するなど、買い手の安心感を高めるサービスも重要だ」と指摘する。官民が連携したインフラづくりが市場拡大のカギになる。

(細田琢朗)