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グローバル教育政策を読む 各国に学ぶ(中)人材呼ぶシンガポール 教育予算の比率、日本の倍

帰国子女でなく海外経験は少ない。グローバル人材として出遅れているとの危機感を抱きながら目に留まったのがシンガポールだった。

 

学費はおおむね米国の大学の半分から3分の2で、卒業後に現地で3年間職に就けば国が授業料を助成する制度がある。世界共通の大学入学資格を得られる教育プログラム「国際バカロレア(IB)」の枠組みで日本から受験できる。

教育環境も整う。巨大なキャンパスは至るところにWi-Fi(ワイファイ)がつながる学習スペースがある。

成績は学生間の相対評価で決まり「常に勉強しなければならないとの切迫感にかられる」(沖本さん)。5段階で数値化され就職にも結びつく。

日本の「同調圧力」が嫌で多様性に触れたいと考えた沖本さん。世界から人材を呼び込む仕組みと勉強に打ち込める環境に魅力を感じた。

シンガポールは教育を優先政策に掲げてきた。リー・クアンユー初代首相は「資源の乏しいシンガポールのような小国にとって人材は決定的な要素だ」と人材立国を宣言した。世界の各種大学ランキングで上位常連校のNUSはその象徴だ。

2022年度当初予算で教育への支出は136億シンガポールドル(1兆3600億円)ほどと歳出全体の13%に当たる。新型コロナウイルス禍で歳出が膨らむ前は2割弱の水準だった。日本は22年度予算で6%程度と差がある。

シンガポール教育省は10年に「21世紀型コンピテンシー(能力)」を打ち出した。グローバル化が国の将来を形づくり続けると強調し、文化横断的技能など備えるべき能力を列挙した。

大学に世界から優秀な人材を集めることはその柱のひとつだ。

NUSは国外の190ほどの大学と交換留学で提携する。東大の全学での協定校数を上回る規模だ。米国や中国の有力企業へのインターンと単位取得をセットにした留学プログラムも用意する。

人材を定着させるため卒業後に無償で学び直せる制度も設ける。

国連教育科学文化機関(ユネスコ)の集計でシンガポールが国外に送り出した学生は20年時点で2万人あまり、受け入れた学生は5万5千人ほどだった。それぞれ人口比で日本の15倍、6倍ほどに相当する。

シンガポールは華人のほかマレー系やタミル系など多民族で構成する。建国時から英語と各民族の母語の2言語教育を徹底し、多くの国民が英語を話せる。これも国境を越えて人を呼び込みやすい素地として生かす。

需要が高い理数教育の強化も人材獲得の柱だ。リー初代首相の息子のリー・シェンロン首相はカリキュラム作成などに携わる司令塔を政府に置いた。教育水準でNUSと双璧をなす国立南洋理工大などを底上げする。

5月に卒業予定の沖本さんは米IT(情報技術)大手の日本法人から内定を得た。ビジネスの経験を積んで再びシンガポールに戻り、ベンチャーキャピタルを立ち上げる夢を描く。