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[FT]ポルトガル、投資家向け「ゴールデンビザ」を廃止

対内投資の誘致を促しつつも、世論の反発を招いてきた同制度の取りやめは、EUではアイルランドに続く2例目となる。

 

ポルトガルのコスタ首相は16日、「不動産投機を阻止するために」ゴールデンビザの新規発給を停止すると発表した。アイルランドは先にゴールデンビザ制度終了の理由として、EUが指摘した安全保障上の懸念を挙げていた。

ゴールデンビザは、投資の見返りとして、国内居住に加えEU内を自由に往来できる資格を与える仕組みだ。ポルトガルとアイルランドでは10年前、金融危機から立ち直ろうとする中でこの制度が導入され、裕福な中国人から特に人気を集めてきた。

主要都市で住宅価格が高騰

ポルトガルがゴールデンビザの廃止に乗り出した背景には、主要都市のリスボンやポルトを中心に住宅価格が高騰し、地元住民の手に届きづらくなったことがある。

コスタ氏率いる社会党政権は、喫緊の課題であった住宅危機対策の一環として、同ビザの新規発給停止を決めた。

近年はエアビーアンドビーなどの民泊仲介プラットフォームで観光客に貸し出すための投資用物件を購入する外国人が増え、不動産価格がつり上がっている。

ゴールデンビザの正式名称は「投資活動のための特別在留査証」で、50万ユーロ(約7100万円)以上の不動産を購入すれば取得可能だ。ポルトガルに5年間居住する資格が与えられる一方、同国での滞在が義務付けられるのは年に数日だけで、5年経過後は永住権を申請できる。この仕組みを通じ、これまでに60億ユーロ以上の投資が集まった。

既存のゴールデンビザは引き続き有効とされる。ただコスタ氏は、不動産がビザ保有者本人またはその家族の自宅として使われている場合と、賃貸に出されている場合に限って、同ビザの更新を認めると説明した。

中国富裕層に5000件以上発給

ポルトガル政府の統計によると、2012年の制度開始以来、出身国別の割合でトップに立つのは中国で、ビザ発給数は5000件を超えた。ブラジルは1000件余り、トルコ、南アフリカ、アラブ首長国連邦(UAE)はそれぞれ500件程度に上っている。

ポルトガル政府関係者は、導入当時に必要とされていた制度であり、目的をおおむね達成できたものの、ここにきて住宅の過度な値上がりという別の問題が持ち上がったと話した。

コスタ政権は20年、ゴールデンビザが住宅価格に及ぼす影響の緩和を目指し、ビザ保有者がリスボンとポルトで物件を購入するハードルを上げた。だが不動産業界幹部の話では、一部の買い手が規制をかいくぐれる手段が存在した。

政府関係者は、ゴールデンビザ制度が住宅価格高騰の最大の理由ではないと認めつつも、政府にとってやっかいな問題を引き起こしており、終了させることが政権イメージにとって重要だと語った。不動産市場により大きな影響を与えている要因としては、観光客向けの短期滞在用アパートの急増や、外国人居住者への税制優遇策が挙げられる。

懸念される外資誘致への影響

ポルトガルの法律事務所アブレウ・アドボガドスの税務パートナー、ヌノ・クニャ・バルナベ氏は、政府が打ち切りの方針を発表したものの、実際にはどう段階的終了に導いていくのか分からないままだと指摘する。「外資の不動産開発業者が進行中のプロジェクトに関して抱いてきた見通しにどう対処するつもりなのか」

リスボン大学社会科学研究所と(公立大学の)ISCTEリスボンが22年末に実施した調査では、国民の10人中9人が住宅危機に直面しているとの見方を示し、官民の投資不足や規制の不備を問題視した。

コスタ政権は、外国からの関心低下を招きかねない方策のさらなる拡大に慎重だ。観光業と不動産市場の活況は、ポルトガル経済の大きな支柱であり、新型コロナウイルスの感染が収束に向かい始めてからユーロ圏平均を上回る成長を実現するのに寄与した。

16日に発表された一連の住宅危機対策には、民間賃貸市場に回る不動産を増やすための措置や、公共住宅の建設加速、世帯への補助、不動産業免許の簡素化が盛り込まれた。これらの実施にこぎ着けるには、議会での承認が必要となる。

EUは22年、安全保障上の懸念から、居住権だけでなく国籍まで付与する「ゴールデンパスポート」制度の廃止を呼び掛けていた。

By Barney Jopson 

(2023年2月17日付 英フィナンシャル・タイムズ紙 https://www.ft.com/)