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脱炭素・非接触、けん引役に 3年間で時価総額を増やした企業 1位 タカトリ 次世代半導体需要を開拓

新型コロナウイルスの感染が国内で初確認されてから1月で丸3年が経過した。日本経済新聞社が売上高300億円以下の中堅企業「NEXT Company」を対象に、1月の月間平均時価総額を3年前と比べたところ、半導体向けの素材加工装置などを手掛けるタカトリが増加率で1位となった。国内外で広がる脱炭素の動きを追い風に業績を拡大し、投資マネーを呼び込んでいる。上位にはコロナ下の非接触需要に応える企業も目立った。

 

米国や中国のメーカーから注文が相次いでいる」。タカトリの増田誠社長は手応えを語る。電圧・電流を制御するパワー半導体のウエハー向けに、原材料の炭化ケイ素(SiC)を切断する装置が伸びている。

SiC製のパワー半導体は主流のシリコン製に比べ電気抵抗が小さく、無駄になる電力が少ないとされる。温暖化ガス排出量の実質ゼロを目指す流れのなかで、次世代半導体として電気自動車(EV)メーカーなどが注目している。

 

タカトリは炭化ケイ素に特化した切断装置の受注を伸ばしている

タカトリは炭化ケイ素に特化した切断装置の受注を伸ばしている

タカトリはもともとワイヤを使った切断装置に強みを持つ。創業当初は繊維製品向け、その後はシリコン向けなどと需要に合わせて対象を変えてきた。EVなど電動化が広がり始めた19年に、SiCに特化した装置の開発に着手。2年後の21年に実用化した。

直径6インチ(約15センチメートル)の円柱形のインゴット(塊)から薄さ0.5ミリメートルの円盤を同時に複数切り出す。SiCは硬度が高く、変形しにくい素材として知られる。タカトリの装置では120~130時間ほどをかけ、ワイヤの角度を細かく変えながら高速で動かし、接触部に荷重を集中させて切断していく。

強みの一つが化学メーカーと共同開発した特殊な溶液だ。ワイヤに噴霧し、長時間の切断でも断面にムラが出ないようにした。直径8インチのインゴット向けの装置開発も進めている。

SiC切断装置を中心とする電子機器事業部門の受注残は22年末時点で前年末比3.3倍の191億円に急増。23年9月期の連結売上高は前期比57%増の160億円、純利益は56%増の16億円と、いずれも00年の上場以降で最高を見込む。

株式市場も業績拡大を好感し、株価は22年秋ごろに騰勢を強めた。23年1月の平均時価総額は450億円と20年1月の13.8倍だ。

コロナ関連需要を取り込む企業も時価総額を大きく増やした。4位のケアネットは製薬会社の医薬情報担当者(MR)の営業支援を手掛ける。コロナ下で病院などへの訪問が難しくなるなか、専用サイトから医師に医薬品情報を配信するサービスが好調だ。22年12月期の部門売上高は84億円と19年12月期の約3倍だ。

同サイトには国内の医師の約6割にあたる約21万人が会員登録する。製薬会社が指定した医師に医薬品情報をまとめた動画を配信し、チャットなどで医師とやり取りもできる。ケアネットが業界で影響力を持つ専門医を招き、新薬の活用法などを議論するオンライン症例検討会も人気だ。

22年8月には臨床試験(治験)支援を手掛ける企業を買収した。支援を通じて登録医師数を増やし、情報配信サービスの成長に弾みをつける。1月の平均時価総額は503億円と3年前の5.8倍に膨らんだ。

9位のアクリートでは、携帯端末にショートメッセージを一斉配信するソフトが伸びている。スマートフォンアプリ経由の決済で不正を防ぐため、2段階認証に活用する企業などの需要が旺盛だ。

自治体の導入も相次ぎ、コロナ感染者に体温報告などを求めるメッセージを送るのに使われている。事業拡大が評価され、1月の平均時価総額は181億円と3年前の4.3倍だ。

田中優成社長は「コロナ禍が落ち着いても、セキュリティー需要などは旺盛な状態が続く」とみる。中期経営計画では最終年度の25年12月期に営業利益30億円と、22年12月期の2.6倍の水準をめざす。

 

調査の概要 直近本決算の売上高が300億円以下だった上場企業約2000社(決算期変更などを除く)が対象。1月の平均時価総額を2020年1月と比較し、増加率が大きい順にランキングした。