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戻らぬ働き手1000万人 先進国のコロナ前比 求人とミスマッチ 労働移動が成長左右

先進国で働く人が増えていない。就業者と求職中の人を合わせた割合が低下し、最新推計で先進国では働いていない人が新型コロナウイルス禍前より1千万人増えた。企業が求める人材とのミスマッチが指摘される。人手不足は人材確保のための賃金上昇を通じ、インフレ圧力になる。柔軟な働き方と生産性の高い産業への労働移動が国の成長を左右する。

コロナの感染拡大は行動制限につながり、多くの人がやむを得ず仕事を失った。厳しい制限がなくなれば、職を離れた人が次々に職場に戻ってくる。こんな仮説を覆すデータが増えている。

代表例が、15歳以上人口に占める働いている人と求職者の割合を示す「労働参加率」(総合・経済面きょうのことば)の動きだ。経済協力開発機構(OECD)の統計によると、米国は2022年10~12月時点で62.2%と19年の同じ期間を1.1ポイント下回る。英国とドイツも22年7~9月に19年10~12月を下回った。

仕事に就かず職探しもしていない「非労働力人口」も増加傾向にある。労働政策研究・研修機構の調べで、米国は22年10~12月で5384万人と19年同期より101万人多い。英国も22年7~9月で900万人と19年10~12月を52万人上回る。

ニッセイ基礎研究所によると、OECD加盟国全体での非労働力人口は22年夏時点で4.4億人とコロナ禍前より1千万人ほど多い。

「労働供給の減少は一部の国ではなく、主要国で共通している」(ニッセイ基礎研の高山武士氏)。各国で経済活動の再開に対し、働き手の供給が追いついていない。人手不足はインフレを長引かせかねない。

米国では失業者に手厚い給付があった。経済再開で仕事を選びやすくなったことも、働き手が職場にすぐ戻らない要因となる。コロナ禍前に月300万人台だった自発的な離職者数(非農業部門、季節調整値)は足元で同400万人を超える。

コロナ禍での就労環境の変化に加え、中期的要因として指摘されるのが働く人の意識変化だ。三菱総合研究所の田中嵩大氏は「働き手が求める条件や環境と、企業の要望にずれがある」とみる。

求人情報サービスの米フレックス・ジョブズが専門職約4千人を対象にした22年の調査で、高賃金よりワークライフバランスを選ぶ人は63%に達した。大手会計事務所の英アーンスト・アンド・ヤングが22年に実施した22カ国・地域の約1万7千人への調査では、43%が1年以内に離職する可能性が高いと答えた。

企業と働き手のパワーバランスが後者に傾く「グレート・レジグネーション(大退職時代)」は求職と求人のずれを生む。自由な働き方を求める人と企業の求める人材像がかみ合わない。

高いスキルを求めるIT(情報技術)分野で顕著になる。田中氏によると、米国はコロナ禍で情報や金融などの国内総生産(GDP)は伸び、雇用者の増加は限定的だった。スキルのミスマッチが雇用増を阻む。

働く人の回復は日本も鈍い。15歳以上のうち働く人と職探しする人を合わせた「労働力人口」は22年平均で6902万人。19年を10万人下回った。就業率は65歳以上で上がり、20~50代前半までの男性で下がっている。

人材のミスマッチが働き手の回復の障害になっている可能性がある。総務省の労働力調査で月あたりの平均値を見ると、22年の転職等希望者は968万人と19年比で約15%増えた。男性の転職希望の伸び率は20%超だ。転職者は14%減の303万人だった。

パーソルキャリアの転職支援サービスのdoda(デューダ)によると、ITエンジニアの転職希望者に対する求人倍率は11倍と、3年で約2倍に高まった。専門スキルが必要で、求人数の伸びに求職者が追いつかない。

人材を必要とする産業に働き手が移らなければ、成長の足かせになる。リスキリング(学び直し)で働く人のスキルを磨き、人材の移動を促す政策支援が重要になる。

(中村結、雇用エディター 松井基一)