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小学校英語、韓国は日本より130時間長く 海外留学3倍差 グローバル教育・政策を読む 各国に学ぶ(上)

岸田文雄首相は1月の施政方針演説で「教育の国際化、グローバル人材の育成」を掲げた。「日本人学生の海外派遣の拡大や、有望な留学生の受け入れを進める」と強調した。政府はグローバル教育政策をどう充実させるべきか。各国の事例などから手掛かりを探る。

海外で学ぶ道、自然と視野に

無理に塾に通わせてもストレスをためるだけ。友達と自由に遊びながら世界で活躍できる人材に育てられないだろうか――。

韓国大手メディアに勤める金光泰さん(49)はゲームに明け暮れる子供の姿に不安を覚えた。考えた末に2022年8月、中学2年と小学6年の息子を米国留学に送った。

多額の費用はかかるものの「韓国で塾に行かせてもどのみち金はかかる。受験戦争に苦しんで英語が話せないで終わるより、よほど良い」。好きなだけ米国に居ていいと話している。

韓国は大学入試を勝ち抜いて上位校に入り、財閥系の大企業に就職する競争が苛烈だ。海外で学んでグローバル人材として外資系企業をめざす道にも自然と目が向く。

新型コロナウイルス禍前の19年時点で小学生から高校生の留学生が8961人いた。ピーク時の05〜08年には2万人を超えた。母親が留学に同行して家庭崩壊する例が相次ぎ、仕送りする父親は「キロギ・アッパ(渡り鳥の父)」と呼ばれた。

海外の大学・大学院への留学はさらに一般的で19年に21万3000人に達した。集計方法が比較的近い日本の文部科学省の統計をみると、同年の日本人の留学生は6万1989人だ。人口が日本の半分ほどの韓国におよそ3倍の留学生がいる。

国内教育でも韓国は小学校から英語力の基礎を育むことに力点を置く。小学3〜4年生の英語の時間数は年68時間と日本の35時間の倍近い。5〜6年生の102時間も日本の70時間より多い。小学生の公教育だけで日韓に計130時間もの差が生じる。

TOEIC平均点、韓国が日本より100点高く

韓国語は日本語と語順も近く、同じ漢字文化でもある。英語学習で日韓は同様に不利といわれる。それにもかかわらず英語能力テスト「TOEIC」の韓国の平均点は21年に679点で、日本より100点ほど高い。

韓国が小学校の英語を必修にしたのは日本より20年以上早い1997年だった。軍出身者の政権が終わっておよそ30年ぶりの文民政権を発足した金泳三(キム・ヨンサム)大統領が「国際化」を前面に出した。

その後も国民の教育熱の高まりと相まって、教育が政治の主要争点になり続けている。保守はエリート人材の育成を重視し、革新は富裕層に有利な教育システムの修正に力を注ぐ傾向がある。英語教育はその論争の核になってきた。

例えば2008年に発足した保守の李明博(イ・ミョンバク)政権は教育内容を自由に構築できる「自律型私立高」を増やした。国際人材を増やす狙いを掲げた。

革新の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は資金力がある富裕層が過度に有利になるのを避ける政策をとった。自律型私立高などのエリート校の廃止に転じた。

韓国の尹錫悦大統領=ロイター

現職で保守の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は「教育は平等性より選択の自由を尊重する」と強調する。22年12月、地方に競争力のある私立高を設け、地域振興政策の核心に位置づける構想を表明した。

韓国では地域の教育を監督する「教育監」も選挙で選び、保守と革新が争う。裁量を広げてエリートを育てるか、全体を底上げするかの論争を保革が繰り広げる。

韓国は受験戦争や教育熱が少子化の要因との見方があり、歴代政権の教育政策が成功しているとの受け止めは限られる。それでも政治課題として競うように質や量を充実させた英語教育には参考にすべき点がある。

日本はいま留学でも国内の英語教育でも韓国などの後じんを拝す。元筑波大教授の佐藤真理子氏(比較・国際教育学)は「海外の先進的な英語教育法を調査・研究し、学習指導要領に反映すべきだ」と提起する。

日本人の英語力が国際的にも低いのは事実だと訴える。生徒の英語学習レベルに合わせた少人数の授業などを挙げて「費用を惜しむべきでない」とも話す。