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回復する旅行消費 国内、コロナ前の9割超に JTB社長 山北栄二郎氏

新型コロナウイルス対策の緩和で観光関連の消費回復が見込まれる。コロナ前からの変化をJTBの山北栄二郎社長に聞いた。

――ツーリズムの見通しは。

「消費額で見ると2023年度は19年度比で国内旅行は96%、インバウンド(訪日外国人)は91%の水準に回復する一方、海外旅行は52%と予想している。国内旅行に続き、水際対策の緩和でインバウンドも中国以外は復活している」

「全体的にまだ回復途上にある。潜在需要は旺盛だが、この3年に観光産業で大量離職が起きたため観光インフラが弱体化した。今後の焦点は企業需要が本格回復するかどうかだ」

――コロナ前と比べどう変化しましたか。

「六つあり、いずれもデジタルが根っこにある。まずDX(デジタルトランスフォーメーション)で個人の多様な旅ニーズに対応可能になったこと。二つめはウェルビーイング(心身の健康と幸福感)を追求する旅スタイル。三つめは旅行グループの少人数化。四つめは言語や海外決済の壁を下げるツールによるボーダーレス化で、五つめは環境意識の高まり。六つめは働きながら休暇も楽しむワーケーションで、これは定着していく」

 

2次交通整備を

 

――地政学リスクは。

「ウクライナ侵攻や中国を巡る緊張は心理的な影響をもたらすが、今は直接的な旅行控えは起きていない。むしろ物価高や燃料費高、円安に伴う海外旅行費の値上がりなど間接的な影響の方が大きい。円安はインバウンドには追い風だ」

――30年に訪日客6000万人という政府目標は現実的ですか。

「パリはコロナ前に年9000万人近い観光客を迎えており、日本の目標は実現可能だ。数だけでなく質が重要になる。以前は旅先が交通の便の良い所に極端に集中して混雑を招いた。需要分散へ地方空港と観光地をつなぐ2次交通を整備する必要がある。旅行プランも大都市と観光地を行ったり来たりすると渋滞するし無駄な時間が多くなる。観光地から次の観光地に向かう周遊型が望まれる」

「地方に自然や食べ物、文化を楽しみ住民と交流する体験型アドベンチャートラベルの潜在需要がある。1人当たり消費額は30万円と現在(15万円)の約2倍に付加価値が高まる。宿泊や移動の手配はデジタルで利便性を高めていく」

 

人手不足が深刻

 

――旅関連サービス業は生産性の低さが問題です。

「平日やシーズンオフの稼働率を上げる必要がある。カギは企業需要とインバウンドで、企業はワーケーションと研修が焦点だ。たとえば環境保護に関する研修を自然豊かな地方で行えば参加者の実感は高まる。インバウンドはサンタクロース物語を閑散期の冬旅行増に活用したフィンランドの知恵が参考になる」

「今は人手不足が深刻。フロントの精算業務などはデジタル対応とし、人はリアルなホスピタリティーを発揮するサービスに集約するようにして生産性を高めたい。国連の試算では世界の国内総生産(GDP)の1割はツーリズムが占める。日本は未開拓の観光資源が多く、伸び代は大きい」

(聞き手は編集委員 吉田ありさ)

 

やまきた・えいじろう 欧州現法トップなどを経て20年から現職。59歳。