株式投資でインデックスに勝つ。それは10年や20年といった長期にわたってインデックスを上回るリターンを上げることを指すと私は考えています。短期間であれば、たまたま運良く勝ちが続いてインデックスのリターンを上回るということはよく起きることだからです。
長期でインデックスを上回るとなると、プラスの期待リターンを持つ再現性の高い投資法を実行することが求められます。これはプロのファンドマネジャーでも難しいことです。ですから、プロの大半もインデックスに負けているという現実があるのです。
ただし、プロの大半も負けているからと言って、インデックスに勝つ再現性の高い株式投資法がないわけではありません。ハードルは高いですが、個別企業の株に投資してインデックスを上回るリターンを目指すことは検討する価値が十分にあると思います。
インデックス投資の落とし穴
そう考える理由は大きく2つあります。1つ目はインデックス投資だけでは面白くないことです。インデックス投資は、米S&P500種株価指数や日経平均株価などの指数に連動する投資信託やETF(上場投信)を購入して持ち続けるシンプルな投資法です。企業の業績やビジネスモデルを分析して銘柄を選ぶ必要はありません。毎月一定の額で投信を購入する積み立て投資を併用すれば、相場全体の動向をウオッチして買い時を探る必要もありません。

購入する投信や購入のルールを決めてスタートを切ったら、他にすることはほとんどない。ですから、「ほったらかしの投資」も可能で、これはこれで誰にでも実践可能な立派な投資方法です。ただ、これでは投資や株式市場に対する関心が高まらず、知識も深まらない。その結果、当初の目的を貫徹できずに途中でやめてしまったり、相場が大きく下落した時に膨らむ含み損を見て怖くなり、投資を投げ出したりしてしまいます。
こうした事態を避けるためにも個別株投資を通じて株式市場や企業について勉強し、知識を深めながら資産形成に取り組んだ方がいい。それに株式投資は奥が深く楽しいものです。知識が増えて経験を積めば、その面白さは増していきます。
2つ目の理由は、インデックス投資では大きなリターンを上げられないことです。経済の成長率を大きく上回るリターンは期待できません。また、S&P500などの米国株のインデックスは過去にずっと右肩上がりで推移してきましたが、それが今後も続くとは限りません。相場全体が上昇しなければ、相場に逆行して値上がりする銘柄で利益を上げたいというニーズは高まるはずです。そのニーズを満たすには、個別株投資に取り組むことが必要になります。
勝ちを導く2つのアプローチ
では、インデックスに勝つ株式投資法にはどのようなものがあるのでしょうか。実務経験や投資理論の研究を通じて見いだした方法を解説していきましょう。
インデックスに勝つ株式投資法には、大雑把に言って①タイミングを計る②値上がりする銘柄を選ぶ――の2つのアプローチがあります。この2つのアプローチは併用することも可能です。まずは前者を説明しましょう。
タイミングを計って銘柄を買うのですが、それには2つの切り口があります。一つは、株価が上昇している時に買う「順張り」。もう一つは株価が下落している時に買って反発を狙う「逆張り」です。株式投資で最終的に勝ちを収めやすいのはどちらでしょうか。それは前者の順張りです。
順張りのポイントは、①うまくトレンドに乗れた時はできるだけ大きく利益を取る②うまくいかない時は早めに損切りする――の2点です。買った後に期待に反して下落し、②の対応を迫られることはよくあります。ですから、順張りの勝率は決して高くはありません。ですが、素早く損切りを行うことで損失をコントロールすることができれば、「損小利大」を実現できます。そのため、個々の取引の勝率は低くても最終的に利益を上げる可能性が高いのです。

一方、最終的に勝ちを収めることが難しいのが逆張りです。実は個々の取引の勝率は順張りよりも逆張りの方が高いでしょう。大きく値下がりした後に反発する銘柄が多いからです。ですが、必ず反発する銘柄ばかりではなく、中には下落が続いて損失が膨らむ銘柄があります。そうした銘柄をつかんで大きな痛手を負い、株式投資を続けられなくなることが多い。これが逆張りの難点です。
勝率の高いやり方が必ずしも長期的に勝てる方法とは限りません。ただし、2008年のリーマン・ショックや20年のコロナショックのような相場の暴落で有望株まで大幅に値下がりした時には絶好の買い場が訪れます。「暴落時に買う」ことは大きな利益を上げる上で非常に有効な方法です。ただしその実行には大変な勇気が必要です。難度も高い。だからこそ成功した時の見返りも大きいのです。
株価を上げる4つの要因
インデックスに勝つ株式投資法の2番目のアプローチは、値上がりする銘柄を選ぶことです。「それができれば誰も苦労しない」と思う読者もいるかもしれません。ですが、これまでの様々な実証研究の結果、株価がインデックスを上回る要因の候補はいくつか明らかになっています。それが銘柄選びの着眼点にもなります。ここでは①小型株効果②割安株効果③クオリティー④モメンタム(値動きの勢い)――の4つの要因を見ていきましょう。

4つの要因のうち、小型株効果と割安株効果の2つは、ノーベル経済学賞を受賞した米シカゴ大学教授のユージン・ファーマさんらが「3ファクターモデル」という学説で提唱したものです。小型株効果は時価総額の小さい銘柄の価格が上昇しやすいという現象、割安株効果は割安な銘柄が値上がりしやすいという傾向をそれぞれ指します。
小型株が値上がりしやすいのは、まず企業の規模が小さく、業績拡大の余地が大きいからです。業績の拡大に比例する形で株価が上昇することが期待できます。さらに小型株はカバーしている証券会社のアナリストが少なく、機関投資家の購入対象にもなりにくい。そのために買いが集まらず、割安な価格で放置されているものが多い。それがひとたび注目されれば、評価が是正されて大きく値上がりすることが期待できます。
割安株にも、小型株と同様に投資家から見過ごされていて低い価格になっている銘柄が少なくありません。割安株の多くの銘柄は割安であり続けますが、中には何らかのきっかけで投資家の評価が高まり、急に動意付く銘柄があります。また金利が上昇する局面では割高感が高まるグロース(成長)株が敬遠されて、割安株の物色が盛んになります。米国で利上げが進む今は、こうした物色傾向も割安株の追い風になることが期待できます。
ROEで銘柄の質を判定
株価を上昇させる3つ目の要因は、銘柄のクオリティー(質)です。経営の質が高く、中長期にわたって業績を拡大し続ける銘柄を選んで、値上がり益を狙います。これは最も王道と言える考え方です。
銘柄のクオリティーを見極める上で有効な経営指標がROE(自己資本利益率)です。企業が資本をいかに効率的に使って利益を上げているかを判定する指標で、当期純利益を自己資本(株主資本)で割って求めます。このROEが高いほど、稼ぐ力がある企業ということになります。このROEが高い企業の株は既に買われて割高なことが多いのですが、中長期で業績を拡大する力があるので、長期にわたって株価の上昇が続くことが見込めます。
最後のモメンタムは、株価の上昇に弾みがついている状態を指します。過去に株価が10倍以上に上昇したテンバガー(10倍株)の長期株価チャートを見ると、株価の上昇幅は一定ではなく、年を追うごとに加速度的に高まって急騰している様子が見て取れます。こうした銘柄を早期に仕込む一つの目安として、例えば株価が1年で2倍になっている株などに着目するといいでしょう。
守備範囲を得意分野に絞る
これまで解説してきた4つの要因に加えて、銘柄選びのポイントをさらにいくつか紹介しましょう。まずは自分の得意分野で探すことです。有望株を発掘するには、企業の事業内容を理解して将来性を見通すことが必要です。自分が仕事や趣味などを通して詳しい業界や分野なら、企業の事業内容を理解するハードルはぐっと下がるはずです。また、今から業績を拡大する銘柄を狙うなら日本企業だけでなく海外企業の株にも目を向けるといいでしょう。

株の売買でもまだポイントがあります。まずは1〜2銘柄に集中しないことです。1つの銘柄での失敗が大きな痛手になってしまうからです。だからといって、分散し過ぎるとインデックスとあまり変わらなくなってしまいます。3〜10銘柄の範囲で失敗する確率の高い小型株は多めに持ち、経営の安定度が高い大型株は少なめにするのがいいと思います。また、売買のルールを決めて厳守し、感情に流された売買をしないことも大切になります。

1963年生まれ。85年一橋大学経済学部卒業後、日本長期信用銀行(現・SBI新生銀行)入行。海外証券子会社のLTCB International Ltdを経て、金融市場営業部および金融開発部次長。2000年にUFJパートナーズ投信(現・三菱UFJ国際投信)に移籍した後、不動産ファンド運用会社社長、生命保険会社執行役員を歴任。現在はミリタス・フィナンシャル・コンサルティング代表取締役。シグマインベストメントスクール学長。『ファイナンス理論全史』(ダイヤモンド社)、『ランダムウォークを超えて勝つための株式投資の思考法と戦略』(日本実業出版社)など著書多数。
(取材・構成はライター 上田ミカコ)
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