しかし世界には828メートルと2.5倍以上高い「超々」高層ビルもある。なぜそんなに違うのか。
眼下に東京タワーの展望台
「まさに東京タワーを見下ろす感じ。今まで見たことがない姿に感動を覚えた」。オフィスや住宅などの複合施設「麻布台ヒルズ」(東京・港)の超高層ビルを建設している清水建設・構造設計部2部長の中川健太郎さんは、最上階の64階からの景色に感慨深げだ。東京タワーの展望台はずっと下。このビルは開業すれば「あべのハルカス」(大阪市)の300メートルを抜き、高さ日本一に躍り出る。
だがこのビルも4年後には日本一の座を奪われる。東京駅前で開発が予定されている「トーチタワー」は高さ390メートルの見通し。このビルの施工も清水建設が優先交渉権を持ち、着工に向けて大詰めの交渉が進む。

国内では300メートル級のビルが珍しくなくなりそうだが、中国や中東などでは400メートル以上のビルも珍しくない。同社生産技術本部建築技術担当の香田伸次さんは「高さでは日本はまだまだだ」と指摘する。事実、世界のビルの高さランキングでは、あべのハルカスでさえ201位だ。
海外で「スーパートール」「メガトール」といわれる「超々」高層ビルの建設計画は、なぜ日本にはあまりないのか。「技術的には1000メートル超までいけるはず」と中川さんは言う。日本の高層建築に立ちはだかるのは地震、そして台風という災害リスクだ。
この「地震と風」のリスクに対応するためには「高さと幅のバランスがカギ」と中川さん。地震に備えるには軽く柔構造で建て、暴風に対応するためには硬くどっしりと建てるのがいいという。相反するこの方針を両立させるため、「日本で超高層ビルを建てる安全な比率は縦(高さ)と横(敷地の土台の幅)の比が4対1」(中川さん)だという。
細長いビルの高層階は「船酔い」
麻布台ヒルズの超高層ビルなどもおおよそ4対1となるようだ。この比率を超えてビルが細長くなると、「高層階が大きく揺れ、室内にいると常に船酔いのようになる」(香田さん)。
地震の被害や暴風が吹いた際の揺れを制御する技術は今後も進化する見通しだが、建設費用や投資対効果の経済性なども考慮すると、日本では「400メートルくらいが落としどころではないか」(中川さん)。
世界はどうだろう。現在、世界一の高さを誇るのはドバイの「ブルジュ・ハリファ」。828メートルとずばぬけて高いこのビルは、砂漠地帯に韓国のサムスン物産が受託して建設した。砂地のドバイは日本以上に地盤が弱い。超高層ビルには強固な地盤が必須と思いきや、地盤の弱さを克服する工法があった。
同ビルの基礎には192本もの長い杭が打たれている。長さ50メートル近い杭で敷地の地盤をがっしり固め、その上に分厚くコンクリートを敷き込み、そこにビルを建てたのだ。香田さんによると「砂の上に硬い島をつくり、その上にビルを建てるイメージ」。ビルは足元を広げたデザインで建物の重さを分散させ、安定させたのではないかという。
「繁栄の象徴」に異変あり
超高層ビルを「繁栄の象徴」として建ててきた新興国では異変も起きている。サウジアラビア第2の都市ジッダの「エコノミックシティー」では1000メートル級の「ジッダ・タワー」の建設が13年に始まったものの、工事は中断されているもようだ。世界ランクの超高層ビルが集中する中国でも、過剰投資や経済合理性軽視への反省や、様々なトラブルから500メートルを超えるビルの建設は禁止された。
米ニューヨークでは、細長すぎる超高層マンションが訴訟問題を引き起こしている。

マンハッタンの象徴、エンパイアステートビルは1931年の建築。地盤が固く地震など自然災害が少ないこの街は昔から超高層ビルの本場だ。ところが近年「ペンシルタワー」と呼ばれる極細の超高層マンションが目立ち始め、問題が噴出している。
セントラルパークを見下ろす好立地に建ったマンションは最上階が96階。高さと敷地の幅の比率は14対1だ。ボールペンとほぼ同じ比率で、「日本では考えられない」(中川さん)。建設後は風による揺れやエレベーターの故障、水漏れといった問題が明らかになった。比率が24対1にもなる極細マンションもあるという。これは未使用の鉛筆とほぼ同じ縦横比だ。
旧約聖書の「バベルの塔」が示す通り、人類は「高さ」への畏敬と羨望を抱いてきた。上へ、上へというこの欲望は、この先いつまで満たされるのだろうか。
杭1本あたり1万トン支える

地震対策では上層部と下層部を構造上独立させ、連結部に積層ゴムやオイルダンパーなどを組み込む設計技術「BILMUS(ビルマス)」を開発した。地震が起きると上層階と下層階が互いの揺れを打ち消す方向に揺れ動き、ビル自体が制振装置になるという。
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