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携帯苦境の楽天、現金流出1.2兆円 有利子負債8割増、黒字化へ経済圏活用カギ

祖業の「楽天市場」など電子商取引(EC)事業や「楽天カード」などの金融事業は好調だが、携帯電話事業「楽天モバイル」の赤字が利益を吹き飛ばしている。同事業のテコ入れには経済圏の活用がカギを握る。

 

携帯電話事業が楽天の財務を圧迫する状況は、現金の流れを示すキャッシュフロー(CF)を見るとよくわかる。本業で稼いだ資金と投資などに使った資金の合計であるフリーCF(純現金収支)は、22年12月期に1兆2100億円のマイナスとなった。

携帯電話基地局の設備投資などで、投資CFが前の期比55%増の9524億円に膨らんだ。営業CFが2579億円のマイナスとなった影響も大きい。堅調な金融事業でモバイル投資を補いきれなくなった格好で、日経バリューサーチによると営業CFのマイナスは09年12月期以来13年ぶりだ。

22年12月末時点の金融事業を除く有利子負債は1兆7607億円で、携帯電話事業に本格参入する前の20年3月末(9854億円)から79%増えた。

 

財務悪化の要因となっている楽天モバイルの設備投資は19年からの累計で1兆円を超える。連結の減価償却費は22年12月期で2661億円となり、20年12月期と比べて約8割増えている。

23年12月期の設備投資額は前期と同水準の3000億円程度を見込むものの、三木谷浩史会長兼社長は24年12月期には1500億円規模に半減する見通しを示す。設備投資の一巡のほか販売店や人員の削減などの効果で、通信網の運用コストは23年末までに月間150億円ほど減るという。

携帯電話事業のコスト削減にメドをつけたうえで、目標に掲げる携帯電話事業の単月黒字化(営業利益ベース)を年内に達成するには売り上げの拡大が必要だ。

携帯電話事業の収入は1契約あたりの月間平均収入と契約数とのかけ算で決まる。楽天は22年5月にデータ使用量が月1ギガバイトまで無料という「0円プラン」の廃止を発表し、7月から最低料金を980円(税抜き)に引き上げた。これにより1000円に満たなかった1契約あたりの月間平均収入は22年10~12月に1805円に上昇した。

 

 

契約数については、0円廃止の発表前は契約数(自社回線)が500万件を超えていたが、22年11月末時点では445万件まで減少した。楽天によると契約数は12月から上昇傾向にあり、23年1月末時点では452万件(速報値)だったという。

携帯電話事業の黒字化には契約数の大幅な積み増しが必要だ。市場関係者からは1000万件規模の契約追加が必要との声も上がる。カギを握るのが、共通ポイント「楽天ポイント」で自社サービス内に利用者を囲い込む「経済圏」の活用だ。

楽天はグループ内に70以上のサービスを持つ。22年のポイント発行額は6200億円相当となり、02年からの累計額は3兆3000億円となった。過去12カ月間にサービスを使った経験のある利用者のうち、カードや銀行、ECなど2つ以上のサービスを使う人の割合は22年12月時点で75.6%。サービスを使えば使うほどポイント還元率が高くなる「スーパーポイントアッププログラム」ののべ利用回数は19年から年平均で22%伸びており、ポイントが同社グループの複数のサービス利用を促す構図だ。

複数店舗で買い回りをすることでポイント還元率が大きく上がる楽天市場の「スーパーセール」に限ってみると、22年12月のEC販売総額のうち23.8%を楽天モバイルの契約者が占める。楽天モバイル契約者のEC購入額は契約前と比べて年間49%増えており、モバイル契約者が経済圏に魅力を感じている様子もうかがえる。

22年10~12月の国内における楽天の利用者数(月に1回以上サービスを利用)は前年同期比11.2%増の3900万人。このうち、モバイル契約者数の割合は12%程度にとどまる。共通ポイントは競合他社との競争が活性化しており、携帯電話の契約を増やすためにも経済圏の魅力にさらに磨きをかけることも重要になってきている。

(西城彰子、秦野貫)