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宇宙最初期の銀河、発見が予想以上に 従来説見直しか ナショナルジオグラフィック

科学者たちはジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を使って原初の宇宙をのぞき込み、宇宙誕生から3億〜4億年しかたっていない時期の銀河を発見した。(IMAGE BY NASA, ESA, CSA, M. ZAMANI (ESA/WEBB))

NASAのジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(以下、JWST)が本格的に稼働して約半年。JWSTの超高感度の赤外線の目は、私たちの期待に応えて、時の始まりに近い時代に輝いていた初期銀河の姿を見せてくれている。

「そうした銀河が、おそろしくたくさんあるのです。あまりにも多く、あまりにも大きく、あまりにも明るく、あまりにも高温で、あまりにも成熟していて、あまりにも早すぎるのです」と、JWSTの上級プロジェクト科学者であるNASAのジョン・メイザー氏は、2023年1月に米国シアトルで開催されたアメリカ天文学会で語った。

時間をさかのぼるタイムマシン

望遠鏡はタイムマシンのようなものだ。遠方の宇宙を見ることは、時間を大きくさかのぼることでもある。望遠鏡がとらえる光は、何百万年も何十億年も前の天体の輝きだ。

膨張する宇宙の中を進んでくる光は、波長が引き伸ばされてる(可視光で言えば「赤く」なる)。この現象は「赤方偏移」と呼ばれる。天文学者は、赤方偏移の大きさを測定することで、天体までの距離を計算することができる。赤方偏移が大きいほど、その天体は遠くにあることになる。

天文学者たちは、赤方偏移の大きい銀河を見つけるために何十年も激しく競争してきた。2015年当時に知られている最も遠い銀河は、赤方偏移の量が8か9だった。その後、ハッブル宇宙望遠鏡が赤方偏移11前後の銀河GN-z11を発見した。そして今、JWSTの観測データにもとづく研究成果が出はじめている。

2022年12月には、米国ボルティモアの宇宙望遠鏡科学研究所で開催された科学会議で、英ハートフォードシャー大学の天体物理学者であるエマ・カーティス=レイク氏が、これまでで最大の赤方偏移をもつ銀河の発見について発表した。

彼女が率いる深宇宙観測プログラム「JWST Advanced Deep Extragalactic Survey (JADES) 」は、JWST の近赤外線カメラで撮影された10 万個の銀河の画像の中から、最も興味をそそられる銀河を選び出し、今度はJWSTの近赤外線分光器を使って、その正確な赤方偏移、つまり銀河の年齢と距離を明らかにした。

JADESの科学者たちは、誕生からまだ3億〜4億年しかたっていない宇宙にあった、4つの銀河までの距離を確認した。そのうちの2つはハッブル宇宙望遠鏡にもとらえられていたが、残りの2つはハッブルの観測範囲よりもはるかに遠いところにあり、赤方偏移は12.6と13.2だった。これらの銀河は、重元素が大量に形成されるよりも前の時代のものであるため、大部分が水素やヘリウムなどの軽元素からできているという。

ありえない古さの銀河たち

ボルチモアの科学会議では、JWSTのもう1つの初期銀河観測プログラム「Cosmic Evolution Early Release Science(CEERS) 」の天文学者たちも発表を行った。CEERS が公開した最初のモザイク画像は、北斗七星のひしゃくの柄が折れ曲がるあたりの空を詳細にとらえた、690枚の画像を合成したもので、これまでに公開されたJWSTの銀河観測画像の中では最も大きい。

見えにくいことで「幻の銀河」とも呼ばれるM74も、ハッブル望遠鏡の光学画像と JWST の中間赤外線画像を合成した画像では明るく輝いて見える。最古の銀河の研究は、M74のような新しい銀河の進化のしくみの解明にも役立つ。(IMAGE BY ESA/WEBB, NASA & CSA, J. LEE AND THE PHANGS-JWST TEAM; ESA/HUBBLE & NASA, R. CHANDAR AND J. SCHMIDT)

CEERSが確認した銀河の多くは赤方偏移が8〜9で、JADESが発見した4つの銀河ほど遠くない。しかし、天文学者たちがまだ調査中のある未確認の銀河は、とんでもなく遠い可能性がある。この銀河候補の赤方偏移は16と推定されていて、ありえないほど若く、遠い銀河であるかもしれない。

CEERSは、赤方偏移12と推定されるトマト形の銀河候補も発見し、「メイジーの銀河」と呼んでいる。「メイジー」とは、CEERSのチームを率いるテキサス大学オースティン校のスティーブ・フィンケルスタイン氏の娘の名前だ。彼はその理由を、「本当に有力な銀河候補で、娘の誕生日に論文を書かずにいられないほど重要な発見だったからです」と説明している。

どちらの銀河も分光観測による確認を待っているところだが、その間にも他のチームが JWSTの他の初期画像から、赤方偏移の大きな銀河(高赤方偏移銀河)の候補を次々と発見している。米ミズーリ大学の ハオジン・ヤン氏のチームは、赤方偏移11〜20の銀河を87個も発見したと主張しており、これらの銀河候補も確認を待っているところだ。

「私たちの推定は50%以上の確率で正しいはずです。20ドルとビール1杯を賭けてもいいです」とヤン氏はアメリカ天文学会の会合で語った。

87個の銀河の赤方偏移のうち、ごく一部でも正しく推定できているものがあれば、「初期宇宙での銀河の形成に関する従来の通説は、見直さなければなりません」とヤン氏は言う。

ハッブル宇宙望遠鏡は2003年から2004年にかけて超深宇宙観測として800回の撮影を行い、当時としては最も遠い宇宙の姿を最も詳細にとらえた。今、科学者たちはJWSTを使って同じ領域を観測し、これまでに発見されたものとしては最も古い銀河をいくつか発見した。(IMAGE BY NASA, ESA, S. BECKWITH (STSCI) AND THE HUDF TEAM)

「何かがおかしい」

どうやら、初期宇宙では科学者の予想以上に、恒星や銀河が活発に誕生していたようである。

「JWSTの観測で見つかった高赤方偏移銀河は、これまでの観測にもとづく予想よりも数が多く、明るいのです」と、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校のグイード・ロバーツ=ボルサーニ氏は語る。氏は、高赤方偏移銀河の探索を通じて、宇宙の進化の解明をめざしているGLASS-JWSTプログラムのメンバーである。「この新しい描像に合わせるためには、銀河はこれまで考えられていたよりも早い時期から、速いペースで形成されていなければなりません」

GLASSは、巨大な銀河団の背後の空域を調べて、初期銀河と思われるものをいくつか発見しているが、その数はシミュレーションで予測されていた数よりも多かった。ロバーツ=ボルサーニ氏はボルチモアで「何かがおかしい」と語ったが、現在確立されている宇宙の法則を破ることなく、この過剰を説明する方法はあると言う。

第1に、JWSTのような望遠鏡では空のごく小さな領域しか一度に撮影できないため、たまたま銀河が異常にたくさんある領域を見ている可能性がある。第2に、実際の星形成は私たちの理論とは違っていて、初期銀河は私たちの予想以上に明るかった可能性がある。第3に、ハッブル宇宙望遠鏡の観測能力が不十分で、その観測結果に基づく推定が不完全であることが考えられる。まだ解明されていない理由により、初期宇宙が予想以上に効率よく光を放っていた可能性もある。

これらの疑問に対する答えは、今後の研究で明らかになるかもしれない。現時点で言えるのは、「初期宇宙には予想以上に多くの星があった」ということだ、とフィンケルスタイン氏は語る。

文=Nadia Drake/訳=三枝小夜子(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2022年1月30日公開)