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福岡都心、初の全室「億ション」登場 坪単価10年で2倍

福岡市でマンションの価格上昇が加速している。繁華街・天神のある中央区で2022年に売り出されたマンションの坪単価は13年の2倍に上昇し、東京・板橋区や練馬区を上回る平均320万円に達した。人気エリアでは全室が販売価格1億円超の「億ション」も初めて登場。大手メーカーが主導する形で高騰が続くなか、地場不動産各社は値ごろ感の演出に腐心している。

福岡初の「全室億ション」建設が進むのは市民の憩いの場である大濠公園の西側、在福岡米国領事館のそば。大和ハウス工業が手掛け、3月に竣工予定の「プレミスト大濠二丁目」だ。地上10階建てで総戸数は35戸。販売価格は全て1億円以上で大濠公園を一望できる最上階は4億円を超えるが、すでに30戸超が契約済みだ。

同物件の坪単価は約540万円にのぼる。購入者の過半は近隣からの転居を予定している企業経営者や開業医だ。福岡県久留米市や北九州市のほか、佐賀や大分、山口など近隣県の富裕層がセカンドハウスとして購入する例もあるという。

民間調査会社の住宅流通新報社(福岡市)によると、福岡市中央区で22年に売り出されたマンションの坪単価は前年比17%上昇の320万4000円。13年と比べ2.03倍に跳ね上がった。

東京カンテイ(東京・品川)による22年10〜12月の東京都23区の調査では、板橋区が303万円、練馬区は311万円。これまで福岡では坪単価200万円を超えるものが高級物件として扱われていたが、「中央区でマンションを建てる企業は、用地取得の段階で坪単価300万円を基準に物件を企画している」(住宅流通新報社の坂本康行編集部長)という。

中央区の価格高騰を受け、西側に隣接する城南区や早良区など交通の便がよい住宅エリアでも上昇が目立つ。城南区は3月下旬に天神南―博多間が延伸開業する福岡市地下鉄七隈線の別府駅、早良区でも地下鉄空港線の西新駅や藤崎駅の周辺で坪単価300万円に迫る物件が増えている。

福岡市の住宅需要は旺盛だ。総務省の住民基本台帳の人口移動報告によると、福岡市は22年の日本人の転入超過数が21年比1134人増の9712人と、都市別で東京23区、大阪市に次ぐ全国3位の多さだった。コーセーアールイーの諸藤敏一社長は「不動産の活況を受けて福岡に参入する大手メーカーが増え、土地の入札価格が上昇している」と説明する。

坪単価の上昇に伴って目に見えて減っているのが1戸当たりの面積だ。中央区のマンションの平均面積は22年に68.44平方メートル。13年の82.97平方メートルから18%狭くなった。その分、1戸あたりの平均価格は6633万9000円と67%の上昇にとどまる。福岡市全体でも坪単価は74%上昇したが、平均価格は55%の上昇に収まった。

コーセーアールイーでは従来80平方メートル程度を基準に計画していた3LDKの家族向け物件の面積を2割弱狭めた。土地の取得コスト低減のため、老朽化したマンションごと土地を購入し、賃貸物件として運用してから取り壊し再開発する取り組みも始めた。年300戸程度供給するうちの半分は福岡市に隣接する春日市や、九州新幹線で博多まで20分弱の久留米市などに移している。

西部ガスホールディングス傘下のエストラスト(山口県下関市)はマンションごとに用意していたモデルルームを複数物件で共有、常設化することで費用を抑える。従来はモデルルーム1件あたり5000万〜6000万円かかっていたが、内装の変更だけなら2000万円程度で済むという。小林聖取締役は「福岡都市部の開発には高値のリスクをどう抑えるかという知恵が必要だ」と話す。

福岡は職住が接近したコンパクトシティーとして人気を集めてきたが、福岡の都心物件は東京の住宅地並みの高根の花になりつつある。地価高騰で住宅開発が郊外にシフトしていけば、都市圏の拡大に伴う交通インフラの整備など新たな課題に向き合うことになりそうだ。(大淵将一)