
プログラミング教室の隆盛など子供の習い事・保育は多様化している。なかでも注目されているのがコミュニケーション力や課題解決力など学力テストでは評価できない「非認知能力」だ。将来予測が困難なVUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)の時代に入り、自ら考え不確実な社会を生き抜く力を育てる。親世代とは大きく異なる新しい教育現場を追った。
東京・渋谷のビルの一室。カラフルな机や椅子が並ぶ教室内では、子どもたちが夢中にパソコンに向かっていた。ゲームを制作したり、ブロックで組み立てたロボットを動かしたりしながらプログラミングやものづくりの考え方を学ぶ。
LITALICO(りたりこ)は幼稚園年長〜高校生が対象のプログラミングとロボット教室を首都圏で展開する。プログラミング技術だけでなく、ものづくりの経験を通じて自分で解決策を考えたり、主体的に物事に取り組む能力が育まれる。LITALICOワンダー事業部長の毛利優介氏は「やりたいことを実現する力を高められる」と話す。
りたりこは発達障害を持つ子供向けの学習教室を展開している。1人1人の個性に合った教育に強みがあり、プログラミング教室でも少人数で各自が関心のある題材やツールで学べる環境を整える。

スポーツ教室も進化している。biima(ビーマ、東京・渋谷)は3〜12歳を対象に、スポーツ科学や幼児教育学に基づいた総合スポーツスクールを全国展開する。幼少期の運動経験が今後の運動能力に与える影響が大きいとし、サッカーやテニス、体操など7種類以上のスポーツを実践して、バランスや反応など運動に必要な能力を育てる。
非認知能力を高めるレッスンも実施する。例えば、少人数のグループで三角コーンなどの上にボールを置いて落とさないようにするプログラムでは、様々なアイデアを出す創造性を鍛えるほか、PDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルを回す訓練にもなる。
田村恵彦社長は「幼児の発達特性や総合スポーツの知識、教育的観点を盛り込み体系化したプログラムを広げたい」と話す。コナミグループやセントラルスポーツなども子ども向け教室に力を入れる。
保育園など幼児教育の現場も変わりつつある。Kids Smile Holdings(キッズスマイルホールディングス)は4月、子会社を通じて東京・錦糸町に日本語と英語で教育する「バイリンガル保育園」を開く。「聞く」「話す」「読む」「書く」といった一般的な英語授業に加え、理科の実験や運動などのレッスンも英語で実施する。同社は子供の自発性を育てる「モンテッソーリ教育」を取り入れており、多様化する幼児教育の需要に対応する。
学研ホールディングス傘下で保育園の業務支援を手掛けるGakkenの竹重純二・幼児教育事業部長は「保育園から保護者の要望にどう応えたらいいのかという相談が増えた」と話す。現在の保育園は読み・書き・数字といった基礎学力を身につけさせるだけではなく、「あいさつができる」「自分の意見を言える」といった非認知能力の育成も求められている。
JPホールディングス子会社の日本保育サービスは保育園と連携した学童クラブに力を入れる。自社の保育園の近くに学童を開設。保育園と共通する科学・技術・工学・芸術・数学・運動を取り入れた「STEAMS」教育を提供する。坂井徹社長は「保育園では主体性を尊重したカリキュラムが普及する一方、小学校は依然として一斉教育であり、ついていけなくなる子どもは少なくない」と放課後教育の重要性を説く。
少子高齢化が進み、子ども1人にかける教育費は年々増加している。家計調査や住民基本台帳、人口推計から算出した1人あたりの年間教育費は2021年に44万円と、10年から3割増えた。共働き世帯が増えるなか、習い事や保育に求められる役割は大きくなっている。
欧州名門校が進出、日本で国際教育
近年、欧州の名門校の日本進出が相次ぐ。駐在員など海外富裕層の子息が主な対象だが、語学などの国際教育を重視する日本の富裕層も引き付ける。不動産会社が海外名門校を誘致することで、自社で開発する「街」の魅力を高め、マンションやオフィスの需要拡大につなげる狙いもある。
「東京は世界的に重要な国際都市。多摩地区は教育施設が多く、芸術や文化などの幅広い教育も受けられる」。マルバーン・カレッジ英国校長のキース・メトカーフ氏は、東京都小平市に東京校を開校する理由についてこう説明する。

マルバーンは英国が本拠地の名門校。今年9月に開設する東京校は、幼稚園年長に相当する初等部から高等部までの13年制(初年度は9年生まで)で、26年には最大950人の生徒を受け入れる。世界共通の大学入学資格につながる教育プログラム「国際バカロレア(IB)」に沿ったカリキュラムを一貫して受けられる。金融リテラシーや起業家教育も重視する。在住外国人の子息が主なターゲットだ。
昨年8月には岩手県八幡平市でも、英国の名門私立校の日本校「ハロウインターナショナルスクール安比ジャパン」が開校した。日本の小学6年生相当の年次から入学する、7年制の学校だ。リーダーシップを養う英国式の「全人教育」を掲げており、ゴルフやスキーなどのスポーツのほか、音楽や絵画といった表現芸術、ディベートや演説もカリキュラムに組み込む。
卒業生は国際的な大学入学資格「Aレベル」が取得でき、英米の名門大学への進学を想定する。年間の学費(寮費を含む)は800万〜900万円と高額だが、日本のほか中国や韓国など計13カ国・地域から180人が入学したという。
海外名門校の開設は、地元経済の起爆剤になりうる。ハロウ安比校を誘致した岩手県の企業は、同校を拠点に2000人規模の学園都市をつくる計画を進める。夏休みなどには入寮している子供に会うために、1泊100万円のスイートルームを備えた学校近隣のホテルに宿泊する保護者も出てきた。海外富裕層のマネー流入にも期待がかかる。
大手不動産会社も自社が開発する街の目玉の1つとして、インターナショナルスクールの誘致を進める。三井不動産は柏の葉キャンパス(千葉県柏市)に、英パブリックスクールの「ラグビー校」の日本校を誘致。今年8月下旬に開校を予定する。ラグビー校はラグビー発祥の地としても知られる名門校。その日本校ができることで「世界で活躍する人材の育成や最先端技術を持つ国内外企業の集積が期待できる」(三井不)。
森ビルは東京都港区で開発中の「麻布台ヒルズ」(今秋開業予定)に、都心最大級の生徒数を有するインターナショナルスクール「ブリティッシュ・スクール・イン・東京」を誘致した。地上7階のキャンパスに3〜11歳の約700人が通学する予定。オフィスや住宅、商業施設の開発と併せて教育環境を充実させ、街の魅力を高めて外国人居住者や外資系企業を呼び込む。
世界情勢の不安定化もあり、「治安のよい日本で子供を学ばせたいアジアの富裕層が増えている」(不動産会社)との指摘もある。自治体や不動産会社の誘致に応じ、日本に進出する海外名門校は今後も増えそうだ。
(五味梨緒奈、蛭田和也、盛岡支局長 青木志成、原欣宏)
[日経ヴェリタス2023年2月12日号]
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