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東南アジア、財政規律を強化 シンガポールは不動産増税

【シンガポール=中野貴司】新型コロナウイルス下で歳出を拡大してきた東南アジア主要国が財政健全化にカジを切っている。シンガポールは高額の不動産購入時の印紙税を引き上げるほか、1月に7%から8%に引き上げた消費税率を24年1月に9%に再び上げる。インドネシアも財政規律ルールを元に戻し、23年予算で国内総生産(GDP)比の財政赤字を3%以内に抑えた。新型コロナ関連の行動制限の撤廃に合わせ、財政も平時モードに戻し、自国通貨安や資本流出が起きるのを防ぐ狙いだ。

「財政余力は過去に比べて小さくなっており、中期的に(増税などの)追加の歳入確保策が必要になる可能性がある」。シンガポール財務省は8日、高齢化による医療費の増加やインフラ整備によって、歳出の膨張が避けられないとする予測を公表した。26〜30年度には歳出規模がGDPの19〜20%に達する一方で、税収などの歳入見通しはGDP比で14.8〜15.7%にとどまると警鐘を鳴らした。

ローレンス・ウォン副首相兼財務相は14日の23年度予算案に関する国会演説で、翌日の15日から高額の不動産購入時にかける印紙税を引き上げる方針を発表した。住宅物件については現在、購入価格や評価額に応じて1〜4%の印紙税を課しているが、最大6%に引き上げる。高額の自動車購入時にかかる手数料も引き上げる。

最低法人税率の国際合意にあわせて、25年から実効税率を15%以上とする方針も明らかにした。補助金などによって15%を大きく下回る実効税率を享受する多国籍企業は多く、進出企業の負担増につながる可能性がある。ウォン氏は「高齢者のケアの財源を確保するためにも、消費税率を引き上げる必要がある」と延べ、2年連続の消費税率の引き上げにも理解を求めた。

23年予算で財政規律を重視したのは、インドネシアも同様だ。インドネシアは1990年代後半のアジア通貨危機で経済が崩壊した反省から、財政赤字をGDP比で3%以内に抑えるルールを設けている。新型コロナ下の20〜22年には時限的措置としてこのルールを凍結したが、23年予算では財政赤字比率を2.84%にとどめた。

22年11月の総選挙で政権が交代したマレーシアは、アンワル新首相兼財務相が24日に、23年予算の見直し案を発表する。前政権が22年10月に発表した当時の予算案は個人向けの現金給付や公務員給与の増額を盛り込み、ばらまき色の濃い内容だった。アンワル氏は14日の国会で、高所得者層も恩恵を受ける一律の補助金支給を見直し、歳出削減に踏み込む姿勢を強調した。

マレーシアは21年にGDP比の政府債務残高の上限を60%から65%に引き上げる措置を導入した。予算案の見直しなしでは、23年末の同比率は63%程度に高止まりする見込みで、改善が急務になっている。

東南アジア各国が財政健全化の取り組みを強化するのは、国内外の投資家からの信認を確保し、投資を呼び込み続けるためだ。世界的に金利が上昇する中で、歳出の拡大が続けば、将来国債の利払いが膨らみ、財政の悪化に拍車がかかる恐れがある。新興国の債務に対する懸念もくすぶっており、財政規律を重視する姿勢を強調し、懸念の払拭を目指す。国民から物価上昇対策を求める声は根強いものの、支援の対象を低所得者層に限定するなどして、歳出の膨張に歯止めをかけたい考えだ。